
2025年2月、「犯罪収益移転防止法(犯収法)」の改正を受けて「2027年4月より、インターネットバンキングなどの非対面取引における本人確認が、原則としてマイナンバーカードのICチップを利用する方法に一本化される方針が示された」との報道があった。改正では、オンラインでの本人確認手続きが厳格化される。具体的には、従来の本人確認書類の画像送信や写しの送付を受ける方法が原則廃止され、セキュリティ性が高いマイナンバーカードの公的個人認証サービスの利用を促すこととなる。事業者は“ホ方式”廃止にどう備えるべきなのか。
2027年4月より「ホ方式」廃止、公的個人認証へ一本化
犯収法改正の背景には、オンライン本人確認(eKYC)を用いた「不正利用」の深刻化がある。2027年4月施行という具体的な期日が設けられたことからも、政府がこの問題への迅速な対策を不可欠と見なしていることがわかるだろう。
実際、既存の本人確認方法では、巧妙化するサイバー犯罪による“なりすまし”への対応が困難だ。生成AIを悪用すれば、精巧な身分証の偽造は容易であり、ディープフェイク技術で他人の顔を模倣してeKYCを突破しようとする手口も見られる。デジタル社会の安全を守るため、本人確認の厳格化は急務だ。
現在のeKYCには、「ホ」「へ」「ト」「ワ」「チ」の5つの方式がある。今回の犯収法改正は、これを原則としてマイナンバーカードなどを用いた公的個人認証に一本化するもので、「ホ方式」(自身の容貌と本人確認書類画像の送信)の廃止を意味する。
ホ方式 | ユーザーが自身の容貌と本人確認書類を撮影し、画像を送信する方法。手軽なため最も普及している |
ヘ方式 | スマートフォンのNFC機能で本人確認書類のICチップを読み取り、容貌写真と照合する方法。ICチップ内の情報で精度を高める |
ト方式 | 本人確認書類情報に加え、金融機関へ顧客情報を照会する方法。顔写真は不要 |
ワ方式 | マイナンバーカードの署名用電子証明書と暗証番号を利用する方法。J-LIS(地方公共団体情報システム機構)が信頼性を担保する |
チ方式 | 書類情報送信後、転送不要郵便で住所を確認する方法。完了までに時間がかかる |
これら5つの方式はセキュリティレベルに差があり、画像のみに頼る「ホ方式」が最も脆弱とされている。しかし、「ホ方式」は来店や郵送が不要で、本人確認書類さえあれば利用できる手軽さから、多くのユーザーに選ばれてきた。事業者側にとっても、手続きの簡便さがユーザー離脱を防ぎ、人件費や管理コストを削減できるメリットからも、広く普及している。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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