エヌビディア(以下、NVIDIA)は5月30日、「NVIDIA DGX プラットフォーム」の説明会を開催。同社の鈴木元哉氏と佐々木邦暢氏が、「AIファクトリー」構想と、それを実現する次世代インフラの包括的なソリューションについて解説した。
NVIDIAが提唱する「AIファクトリー」は、データを原材料としてAIモデルの訓練・推論を行い、知能を大量生産する新しいデータセンター形態。この投資により、インフラ利用率向上、開発者生産性向上、AI開発サイクルの一元管理、TCO削減とROI早期実現、社内AI専門性の育成という5つのメリットが得られる。
鈴木氏はリーズニング(推論型)AIの特徴として、高精度な結果を得るために複数回の検証が必要となり、その分コンピューティングリソースの需要が増加している点を指摘。これに伴い、AIインフラの設計要件も変化していると述べた。

またAIのクラウド利用では、GPUリソースの非効率な活用(投資額の30%程度しか生産的に使用できていない)や、機密情報の移行リスクが課題となっていることを指摘。このため、多くの企業が「AIワークロードをプライベートインフラに再移行する傾向にある」と述べ、「用途に応じたプライベートAIやインフラやハイブリッドクラウドの採用」を推奨した。
続く佐々木氏の技術セッションでは、最新のDGX製品群が詳細に紹介された。
主力製品の「DGX B200」は、最新GPU「Blackwell」を8基搭載した空冷式システムで、既存のデータセンターにも設置しやすい設計となっている。
さらに「DGX GB200」は、36基のGrace CPUと72基のBlackwell GPUを接続し、CPUメモリとGPUメモリを統合した巨大なメモリ空間として活用できる。データセンターのラック1本全体がコンピューター単位として稼働し、72基のGPUが高速に連携する仕組みとなっている。

また今年後半予定の次世代機種「DGX B300」では、前世代DGX H200との比較で推論性能が約11倍、学習性能が4倍と大幅に性能が向上している。佐々木氏は次世代の「Blackwell Ultra」世代のGPUについて「4ビットの非常に細かい浮動小数点数を使った演算に特化しており、FP4の演算性能がGB200の1.5倍に向上している」と説明した。

技術面での大きな進歩として、佐々木氏は新しいクラスター管理ソフトウェア「NVIDIA Mission Control」を紹介した。従来の「Base Command Manager」をコアとしながら、大規模AIシステムに必要な新機能を統合したソフトウェアスタックである。特に注目されるのが自律回復エンジンで、「100台のコンピューターを連携してジョブを実行している時に、どこかがおかしくなった場合の問題判別を自動化し、再開までの時間を短縮する」機能を提供する。故障の早期検知、影響の最小化、ジョブ実行の継続を自動的に行うことで、ダウンタイムを大幅に削減できる。

発表では、DGX SuperPODを活用した実際の成果も明らかにされた。BMWは従来システム比6倍の性能を実現し、eBayでは15〜20%の開発者生産性向上を達成しているという。また、3年契約の他社ソリューション比較で55%のコスト削減、稼働率90%の実現など、大きな成果が報告されている。
世界の企業におけるDGX採用実績では、大学、自動車メーカー、航空宇宙・防衛産業で100%の採用率を記録。8つの業界平均でも10社中8.5社という高い採用率を示している。Bristol Myers SquibbやSoftBank、Sonyなどのリーディングカンパニーが、創薬、顧客向けLLM開発、研究開発プロジェクトなど、ミッションクリティカルな取り組みにDGX SuperPODを活用しているという。
NVIDIAは、DGXプラットフォームの導入方法では、オンプレミスでの独自のAIインフラストラクチャ導入からホスト型ソリューションまでの選択肢を用意する。具体的には、DGX対応のマネージドサービスプロバイダー(MSP)による運用支援、認定コロケーションパートナーを通じたデータセンターの提供、NVIDIA認定ストレージプロバイダー製品との連携などが挙げられる。
鈴木氏は最後に「これからの生成AI時代においては、クラウド戦略を見直し、プライベートインフラとパブリッククラウドを適切に組み合わせたハイブリッドアプローチが重要になる。DGXプラットフォームは、企業のAI変革力を前例のない規模で実現するソリューション」と強調した。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア