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形だけのDXプロジェクト決裁者が起こす突然の「ちゃぶ台返し」をどう防ぐ?すぐに実践できる現実的対応策

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トップから突然の「ちゃぶ台返し」、なぜ起きるのか?

 この問題の要因の一つは、意思決定者とプロジェクト担当者の“プロジェクト理解レベル”に大きなギャップが生じていること。これが、普段プロジェクトに関わっていない意思決定者による突然の「ちゃぶ台返し」という最も恐ろしい事態を引き起こすのです。プロジェクトの節目で行われる会議や定期レビューのタイミングで、これまでの文脈やプロジェクトの制約条件を踏まえずに「なぜこんなに時間がかかるのか」「もっと安くできないのか」「他社はもっとAIで簡単にやっているのではないか」といった的外れな疑問を投げかけられることも少なくありません。

 特に厄介なのは、意思決定者が他社の事例や業界のトレンドを断片的に聞きかじって、それを自社のプロジェクトに当てはめようとするケースです。「この前の展示会で見たシステムは3ヵ月で導入できると言っていた」「競合他社はAIを使って業務を完全自動化したらしい」といった曖昧な情報をもとに、現場に懐疑的な目を向けて現在進行中のプロジェクトの方向性を大幅に変更させようとすることがあります。

 こうした事態が発生する要因としては、日本における事業会社の上層部にプロジェクトの実務経験やITの専門知識が十分でない人材が多いことが挙げられます。日本ではIT人材の72%がIT企業に集中しており、これは諸外国と比較しても特異な構造です[1]。こうした産業構造の背景から、日本の事業会社ではITの専門知識やプロジェクト経験を培うキャリアの土壌が限られており、結果として適切な意思決定を行える人材をプロジェクトに配置できない現状が見て取れます。

※「令和4年度 年次経済財政報告」(内閣府、2022年7月)、第3章 第3節 第3-3-4図をもとに筆者が作図
[画像クリックで拡大します]

 また、上意下達の傾向が強い組織文化をもつ企業で行われる「詰め」も問題を深刻化させています。普段から部下や取引業者に対して厳しい要求を行い、利益や売上、結果責任を追及することに慣れている企業の経営層は、プロジェクトに対しても同様のアプローチを取りがちです。しかし、新しい技術を扱うプロジェクトでは、従来の業務とは異なる不確実性やリスクが存在するため、過度なプレッシャーは逆効果になってしまいます。

 さらに、意思決定者が過去の限られた経験をもとに、プロジェクトの検討事項の一部にだけ必要以上に細かく口を挟んだり、「俺が昔やったプロジェクトではこうだった」と進め方や意思決定に横槍をいれたりする「知ったかぶり」も全体効率を大きく下げ、失敗の確率を上げます。

ちゃぶ台返しの悪影響は思わぬところへ……

 これまで説明してきた意思決定者の行為は、プロジェクトチームに深刻な悪影響を与えます。プロジェクトメンバーが萎縮して、積極的な提案や解決策の提示を避けるようになってしまうのです。「どうせ後で否定されるなら、無難な選択肢だけを提示しよう」という消極的な雰囲気がまん延し、プロジェクトのROIや革新性が大幅に低下してしまいます。DXプロジェクトは、従来の方法では解決できない組織や事業の問題を解決することが目的であるにもかかわらず、責任追及が想定されることで新しいアプローチに挑戦できなければ本末転倒です。

 ITの進歩のスピードはまさに日進月歩です。過去に通用したやり方が現在行われているプロジェクトでも通用するとは限りません。また、プロジェクトは求められるQCD(品質・コスト・納期)の基準や目的、前提条件によって進め方が大きく変わるため、検討のプロセスもそれに応じた形で行われる必要があります。意思決定者当人は良かれと思ってやっていても、部分的な知識や過去の経験を無理に当てはめることで、これらのバランスが失われて失敗につながってしまうのです。

 意思決定者のちゃぶ台返しによってプロジェクトに大きな方向転換が発生すると、それまでの作業が無駄になるだけでなく、ベンダーとの契約変更や追加費用、納期の大幅な遅延などが発生するため、まさに意思決定者が最も恐れていた「失敗」の確率を大きく上げることになってしまいます。往々にして、こうした追加対応は発注側から「サービス」としてベンダーに背負わされる形で実施されますが、これはベンダーにとって大きな損失となり、「不適切な顧客」と見られて将来的な取引に影響する可能性も高くなることを忘れてはいけません。

 加えて、優秀な人材との信頼関係が悪化する恐れもあります。専門性が高く優秀な人材は市場価値が高いため、非効率的なプロジェクト運営や理不尽な要求に嫌気が差すと、他のプロジェクトへの異動や転職を検討し始めます。外部のベンダーも、意思決定プロセスが不透明で要求が頻繁に変わるクライアントには、自社の「エース」を投入せず、長期的な関係構築を避けるようになるでしょう。

[1] 「令和4年度 年次経済財政報告」(内閣府、2022年7月)、第3章 第3節を参照

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意思決定者を味方につける現実的な対応策

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この記事の著者

橋本 将功(ハシモト マサヨシ)

パラダイスウェア株式会社 代表取締役
早稲田大学第一文学部卒業。文学修士(MA)。IT業界25年目、PM歴24年目、経営歴14年目、父親歴9年目。 Webサイト/Webツール/業務システム/アプリ/組織改革など、500件以上のプロジェクトのリードとサポートを実施。「プロジェクトマネジメントの民主化」の実現...

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