
普段はゲームプログラマとして働きながら、M-1グランプリやキングオブコント2024に挑戦し、R-1グランプリ2023では1回戦突破を果たした“セキュリティ芸人”のアスースン・オンラインさん。チャンネル登録者数3万人以上の自身のYouTubeチャンネル「脆弱エンジニアの日常」では、「プログラミルクボーイ」「脆弱王」など、コンピュータサイエンスとエンタメを融合させた情報工学バラエティを展開している。セキュリティ芸人はなぜ生まれ、どのようにしてネタを編み出しているのか。
お笑いが好きだった学生時代を経て、自ら“芸人”に
──なぜセキュリティ芸人になったんですか?
もともとお笑いが大好きで、学生時代は「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」をかじりつくように聴いていました。何かを作って披露するのも好きで、中学生の頃はゲームを作って友人に見せたり、高校生の頃はクラスのグループLINEにしょうもない動画を上げたりして、リアクションがあるとうれしかった。
大学院生のときに、手相芸人や家電芸人はいるのに、セキュリティ芸人はいないなとふと思ったんです。そこで、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)が主催する人材育成イベント「SecHack365」に参加し、セキュリティ啓発コンテンツの一環として、セキュリティ芸人のプロデュースを提案しました。
しかし、案の定セキュリティ芸人になりたい人は現れず……(笑)。結局、自分が技術系のイベントでネタを披露するようになりました。自己プロデュースですね。
──本業はゲームプログラマなのに、なぜセキュリティを題材にしているのですか?
セキュリティって、すごく勉強になるんです。ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークといったコンピュータ全般の知識が身について、その結果、日々の開発効率も上がるんです。
──他の芸人さんと違うのは、愚直に人材育成に寄与しようとしているところですよね。SecHack365に加え、IPAなどが主催する学生向けの「セキュリティ・キャンプ」では運営にも参加して、笑ってもらうだけじゃなく、そこから新しい知識や成長のきっかけをつかんでもらいたい、という想いで活動されていると見ています。
SecHack365やセキュリティ・キャンプは、全国どこからでも無料で参加できる貴重なイベントで、選考はありますが、興味がある人、チャンスがある人がいたら背中を押してあげたい。そこでエンジニアリングの面白さに気づいて、夢中になってくれる人が増えればいいなと。
僕も学生時代にセキュリティ・キャンプに参加して、視野が広がったんです。それまでは「プログラミング=情報工学」くらいの認識でしたが、ネットワーク、組み込みシステム、ハードウェアといった下のレイヤーまで知ることができました。そこまでズバ抜けた技術力がなくても熱意がある人なら参加できるので、そういう機会を広く届けたい。それが芸人活動の根っこにあります。
──技術系イベントが主戦場のセキュリティ芸人にとって、M-1やR-1はアウェイだと思うのですが、賞レースに出場して学んだことは何ですか?
M-1やR-1は、笑いのスキルを身につけたくて出場しています。立ち振る舞い・声量・目線・言い方・間などすべてが勉強になって、それが普段のライトニングトークにも活かされています。
特に「ツカミ」の大切さを学びました。客席でM-1の1回戦を見ていると、ネタはおもしろいのに全然ウケないコンビがいるんです。何が違うかというと、おそらく冒頭でお客さんの気持ちをちゃんと掴めているかどうかなんだと思います。
これがものすごくうまいのが令和ロマンさんで、まず「もみあげと髭で自分の顔をぐるりと囲うことで、顔の内側を日本から独立させようとしている」と言って、自分たちの顔に観客の視線を集める。1回戦は知らない芸人ばかりで顔すら見てもらえないから、まず注目させることが肝心なんだと。
それで僕も技術系のイベントのツカミとして、YouTubeで視聴者の方からもらったコメント「売れる前の星野源感がある」をヒントに、「誰が売れる前の星野源だよ」というツッコミをしてみたりしました(笑)。
──アスースン・オンラインさんのYouTubeチャンネル「脆弱エンジニアの日常」を一言で表すと?
情報工学バラエティです。セキュリティをネタにしたお笑いを中心に、CTFをゲーム実況風にやったり、エンタメチックに楽しくお届けしたりするという軸でやっています。
──情シスの方に特におすすめの動画はありますか?
「基本情報技術者試験早押しクイズ」ですね。ITパスポートや情報セキュリティマネジメントの試験に出てくるような内容をクイズ形式にして、相方とバトルしているところを楽しめるようになっていると思います。
──私は「東工大院生の日常会話」が好きです。東工大の図書館や食堂でよく繰り広げられている会話というコンセプトで、言語ニキとにわか君の対話形式なんですが、言語ニキが延々と一方的に話すんです。漫才にもなってないし、正直何を言っているか全然分からない。でも、2人のやりとりを聴いていると、自分の中の理系学生の記憶が蘇ってきて、だんだん愛おしくなってくるんですよね。
この記事は参考になりましたか?
- 酒井真弓の『会いたい人』連載記事一覧
-
- セキュリティとお笑いは表裏一体?「分かる人は笑える」と話題の“セキュリティ芸人”がネタに込...
- 「今さらペーパーレス?」と侮るなかれ──“デジタルアレルギー”を克服した常陽銀行の驚くほど...
- 技術者集団のエンジニアが抱えていた“マンネリ感”……グループ依存から脱却する「牽引役」に転...
- この記事の著者
-
酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア