損保ジャパンのCIOが語るITコスト管理の最適化、その先に描く組織の未来……IT人材の地位向上にも?
TBM Summit 25:Japanローンチイベント Vol.1
経営・事業・ITが共通の視点&データでIT戦略を語れる組織に
内山氏はTBMを通じて、「経営や事業側にいる人たちの手のひらの上に、ITやITパーソンたちが乗っている状態を作り出したい」と語る。目指すのは、経営や事業の意思がスピーディーに、そして十分にITに反映されていくような組織の実現だ。
TBM導入以前から、同社では個別の案件ごとに初期開発コストだけでなくランニングコストも含めて試算し、効果予測を行ってROI評価による投資判断が実践されてきた。しかし、その積み重ねである“全体のITコスト”を見てみると、期待する水準に達していないという現実があった。
「ITコストの肝心な全体像が、経営や事業側から見えづらい状態になっていたからだ」と内山氏は原因を振り返る。新しいシステムやプロダクトを開発すればランニングコストが増えるというのは、IT担当者にとっては当然の認識だが、ITに携わらない者にとっては実感がわきにくいものだ。
「こうした状況を打破するために、TBMを活用して経営・事業・ITが一体となって共通の視点とデータに基づきながら、積極的にIT活用に取り組んでいける体制を構築していきたいです」(内山氏)
TBMを事業戦略の“意思決定基盤”として活用する
TBMの実践において重要な要素の一つが、「TBMタクソノミー」と呼ばれる分類体系である。テクノロジー用語とビジネス用語を統一し、IT部門とユーザー部門の対話を成立させるための共通言語として、コストソース、テクノロジー、ITリソース、アプリケーション、サービスを説明する分類体系だ。10年以上にわたり世界4,000以上の組織で実践されてきたコスト管理ノウハウの集大成ともいえる。
損保ジャパンも、このタクソノミーをベースとしたITコストの構造化を進めている。「ITコスト全体を、いつでも見たい方向からサポートできることが重要。付け焼き刃でなく、しっかりとしたモデル・データ構造でサポートできるのがTBMタクソノミーの価値だ」と内山氏は評価した。
かつては、ITコストの可視化などExcelでも十分ではないかと考えていた時期もあったという。しかしよく考えてみれば、実際にはIT部門がコスト集計に何ヵ月もの時間を費やしてたうえ、その場その場の関心事に応じてコストをブレイクダウンしてきたため、一貫性に欠けていたとのことだ。
同社の場合、ITコストの予算明細だけでも年間約1万5,000件という膨大なデータ量がある。先述の通り、経営や事業側がこの実態を把握できる環境が整っていなかった。IT部門ではデータの整理が行われていたが、やはり片側からの視点だけでは不十分で、経営や事業側がその見方を明確に理解できていない可能性を考慮しきれていなかった。
TBMタクソノミーの活用により、まずはスタートラインとして経営・事業・ITが共通言語で全体を理解するための土壌を整えることができる。
さらに損保ジャパンは、従来から保険商品ごとのコスト配賦を初期段階から検討する体制となっている。この取り組みにおいて、商品ごとのITコストを可視化できるようになれば、今後は商品の統廃合や見直しといったビジネス判断にも活用可能なデータを提供できるかもしれない。「すでに具体的な活用イメージを描いている」と内山氏は明かした。TBMを単なるコスト管理のツールではなく、事業戦略の“意思決定基盤”へと応用しようとしているのだ。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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