DXが動かない原因は人材不足ではない?リーダーを生み出せない企業に欠けている「5つの視点」と具体策
第4回:DXリーダーに必要な能力と具体的な“身に付け方”を解説

多くの日本企業、特に規模の大きな伝統的企業「JTC(Japanese Traditional Company)」では、DXが掛け声倒れに終わるケースが少なくありません。こうしたケースは多くの場合、非技術的なことで課題を抱えています。連載「住友生命 岸和良の“JTC型DX”指南書」では、住友生命でITプロジェクトのリーダーを務め、社内外でDX人材育成に携わる岸和良(以下、筆者)が、JTCのDXを阻む要因を紐解き、真の意味で変革を遂げるための具体的な方法を解説。第4回となる本記事では、DXを組織一体で進めていくために、リーダーに必要な5つの能力を挙げ、具体的なアクションを示します。
改めて見直すべきDXの本質
本連載では、第1回でJTCに根強い「縦割りの壁」、第2回で「デジタル化とDXの違い」と「横をつなぐ人材」の必要性、そして第3回では「スモールDXとビッグピクチャーによる全社DX」について説明しました。今回はそれらを踏まえ、全社を動かすDXを率いるリーダーに必要な5つのスキルとそれを身に着ける方法について説明します。
DXが進まない理由には、組織のサイロ化による社内調整の難しさや、足元から小さく始めるスモールDXでの成功体験不足などがありますが(スモールDXの詳細は第3回を参照)、DXを担う人材の部門横断的調整能力が不足していることも深刻な課題として挙げられます。JTCでは、長年の縦割り構造の影響で、部門を横断して動ける“横をつなぐ人”が育ちづらい構造的問題があるからです。そこで今回は、全社DXを推し進めるために必要な「5つの能力」を示し、その能力をどのように身につけるのかについて紹介します。
全社DXに必要な5つの能力
DXの本質は、企業の価値提供そのものを見直し、顧客との関係やビジネスモデルを再構築することにあります。これを実現するためには、部門を超えて人が動き、現場と経営層がつながり、未来に向けた変革を組織全体で起こすことが欠かせません。DXを率いる人材には以下の5つの能力が必要だと筆者は考えています。
- 顧客視点で考える力
- 部門を越えて調整する力
- ビジネスとデジタルをつなぐ力
- ストーリーで語り、巻き込む力
- 未来から逆算する構想力

1つ目は「顧客視点で考える力」。これがDXの最初に必要な能力です。デジタルは顧客体験を変える手段であり「顧客がどう感じるか」「満足するか」という視点でビジネスを徹底的に考えられることが求められます。
2つ目は、何度も言及している「部門を越えて調整する力」。縦割り構造でサイロの壁が分厚いJTCにおいて、営業部門、商品開発部門、IT部門などの協働が求められるため、利害を超えて連携する能力が必要です。
3つ目は「ビジネスとデジタルをつなぐ力」。これは、ビジネス部門側とデジタル部門側の間にあるギャップを埋め、成果に結びつける力です。どちら側の言語も理解し、翻訳できる“横をつなぐ人”がプロジェクトの成否を握ります。
4つ目は「ストーリーで語り、巻き込む力」。これは周囲の共感を得て組織を動かすための原動力です。正論では人は動きません。「なぜ自分たちがやるのか」その意義を周りに浸透させる語りかけが周囲の力を引き出します。
最後5つ目は「未来から逆算する構想力」。部分最適に終わらせず、DXを企業の未来につなげる視座を持つことが重要です。この力がなければ、変革は一過性のもので終わってしまいます。
ここからは、それぞれの能力について具体的な行動例を挙げながら詳細を解説していきます。
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- この記事の著者
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岸 和良(キシ カズヨシ)
住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長住友生命に入社後、生命保険事業に従事しながらオープンイノベーションの一環として週末に教育研究、プロボノ活動、執筆、講演、趣味の野菜作りを行う。2016年から...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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