現場・現物・現実の追求×テクノロジーこそスズキ流DX
井無田:中期経営計画で掲げた売上8兆円、営業利益8000億円という目標の達成には、DXや生成AIのさらなる投資が鍵を握るとお考えでしょうか。
鵜飼: 実は投資に関しては、その逆なのです。DXへの投資をどうやって抑えていくか、という視点が重要になっています。
各部門には、今年度の事業計画を立てる際、AIを事業の中心に据えるよう依頼しました。議事録作成や翻訳などの日常業務はもちろん、自分達の仕事のど真ん中でどのようにAIを使っていくかをそれぞれの現場が考え、実践してもらっています。誰か外部の人にお願いして、良いものを作ってもらおうとは考えていません。
井無田:なるほど。 私たちもこれからの組織に本当に必要な人材像について、あらためて考えさせられます。
鵜飼:私たちは、中期経営計画で掲げた目標と現状の差分が30%あるからといって、人員を30%も増やすつもりはありません。
あくまで今いる人財、今ある予算のなかで、どのように最大限の成果を出すかを考える。そのためにはAIやデジタルツールを前提とした業務改革が不可欠ですし、同時に“個の成長”も重視しています。
井無田: 役員から学ぶという、これまでのお話からも個の成長を重視する姿勢が伺えます。
鵜飼:そうですね。学ぶ姿勢だけでなく、スズキが大事にしてきた三現主義の考え方も、今やデジタルと融合しています。インターネットにも「現場」があるんですよね。
組織文化と生成AIをはじめとした最新テクノロジーを組み合わせていくことこそ、スズキ流DXの核かもしれません。テクノロジーを単なる道具としてではなく、「人」とともに進化させる。この姿勢がスズキの力になると考えています。
提供するものは変わるかもしれませんが、より多くの人に豊かで便利な生活を送っていただきたい、というスズキの価値観はこれからも変わりません。
井無田:あらためて、テクノロジーは“人”の意志と行動に支えられてこそ、本当の価値を発揮するということを理解できました。現場を信じ、やってみることを恐れず、トップから若手まで全員が学び続ける。その姿勢こそが、DXを単なる業務改革にとどめず、企業文化を未来に進化させる──これこそがスズキ流DXの真髄だと感じました。

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井無田 仲(イムタ ナカ)
テックタッチ株式会社 代表取締役慶應義塾大学法学部、コロンビア大学MBA卒
2003年から2011年までドイツ証券、新生銀行にて企業の資金調達/M&A助言業務に従事後、ユナイテッド社で事業責任者、米国子会社代表などを歴任し大規模サービスの開発・グロースなどを手がける。「ITリテラシーがいらなくなる...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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中釜 由起子(ナカガマ ユキコ)
テックタッチ株式会社 Head of PR中央大学法学部卒。2005年から2019年まで朝日新聞社で記者・新規事業担当、「telling,」創刊編集長などを務める。株式会社ジーニーで広報・ブランディング・マーケティング等の責任者を経て2023年にテックタッチへ。日本のDX推進をアシストするシステム利...
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