Google CloudのGemini CLIが実現する「バイブコーディング」── コード生成30%超の裏にあるReActループとMCPの強み
Google Cloud VP & GM ブラッド・カルダー氏 インタビュー
Google Cloudが推進するAIドリブンソフトウェア開発では、「ReActループ」と「MCP(Model Context Protocol)」が中核技術となる。今回は、自然言語からコードを生成する「バイブコーディング」、計画作成から実行まで自動化する「Gemini CLI」、外部ツールとの連携を可能にする「MCP対応」などの最先端手法について、Google Cloud Next Tokyo ‘25で来日した幹部に聞いた。
コーディングのためのAIエージェントGemini CLI登場

2025年現在、生成AIのビジネスユースケースの中で、最もホットな領域はコーディングだろう。このユースケースは、ソフトウェアエンジニアリングの専門知識を持つ人たちだけのためのものではない。例えば、2025年初めから話題に上がるようになった言葉に、「バイブコーディング(Vibe Coding)」がある。これは元Tesla/元OpenAIのAI研究者アンドレイ・カーパシー氏が提唱した考え方で、AIを利用し、自然言語プロンプトからコードを生成するソフトウェア開発手法である。
「以前は『ノーコーディング』と呼ばれていたのと同様の手法が、環境の変化に伴い、新しい用語の登場に繋がったのではないか」と、ブラッド・カルダー氏(Google Cloud VP & GM、クラウド プラットフォーム & テクニカル インフラストラクチャ)は語る。確かに、直接コードを記述することなく、アプリケーション成果物ができる点は、いわゆるビジネスユーザー向けに提供されるノーコードツールと共通する。とはいえ、LLMの進化は、専門知識を持つプロの開発者のツールも変えようとしており、バイブコーディングはビジネスユーザー以外からも関心を集めるようになってきた。
Google Cloudでは、アプリケーション開発だけでなく、AIエージェント構築ができるよう、製品スコープを拡張させてきた。これに伴い、プロの開発者向けにAIエージェントを利用するソリューションも登場している。その1つが、2025年7月に一般提供を開始した、企業向けのAIエージェントプラットフォーム Google Agentspaceである。カルダー氏は「このような環境で、自然言語のプロンプトからAIエージェントを構築し、業務を担当してもらうことも、バイブコーディングに含まれると思う」と述べた。
また、プロの開発者がすでに利用できるAIエージェントとして、Gemini Code Assistのエージェントモードがある。仮にプロンプトに対して逐次的に対応するやり方をQ&Aモードだとすると、やるべきことを分解して提案してくれるのがエージェントモードになる。この裏では、オープンソースのAIエージェント「Gemini CLI(Command Line Interface)」が動いている。
ソフトウェアエンジニアリングを変える2つの進化
すでにGoogleでは、社内コードのうち30%超がAI生成のものになった。しかし、これはAIテクノロジーの劇的な進化によるもので、Googleが会社としてバイブコーディングを実践しているためではない。カルダー氏は2つの重要なテクノロジー進化を指摘する。

1つは、生成AIの推論と思考の能力が劇的に向上したことだ。これによって、ReAct(Reasoning/Acting)ループで、より複雑なタスクを実行できるようになった。例えば、開発者がAIエージェントに「このプログラムのドロップダウンメニューから、表示言語を選べるようにしてください」と依頼したとする。AIエージェントが最初に行うのは、計画を作成し、提案することだ。開発者がその中身を見ると、コーディング手順が示されている。その詳細を確認し、問題があれば自分で変更を加える。なければ受け入れる。このやり方は、AIに計画の手順を定義する能力が伴っていなくてはできないことだ。さらに、AIエージェントは、計画作成だけでなく、自分が作った計画の実行も得意としている。そのため、Gemini CLIのようなツールを使いながら、計画の作成から、評価、コードの実装、結果のレビュー、改善に至るReActループでAIとコラボレーションしながらの開発が可能になる。
そして、カルダー氏が挙げたもう1つの重要なテクノロジーの進化が、MCP(Model Context Protocol)である。MCPの登場で、AIエージェントは外部のツールに接続し、必要な情報を持って来られるようになった。これはAIエージェントの推論と実行能力を拡張できるようになったことを意味する。開発者は、どんなコードを記述するべきか、あるいはコードにどんな変更を適用するべきかを、Gemini 2.5 ProやGemini 2.5 Flashのようなモデルに任せられるようになった。
プロンプトから指示を入力する代わりに、文書を読ませる使い方もできる。カルダー氏が顧客との対話で紹介した例に、次のようなものがある。まず、規制業種の企業が新しいコンプライアンス要件を課されることになったとする。米国の場合、政府から英語の要件文書が提示される。通常であれば、人間が読み込まなくてはならない。代わりに、Gemini CLIに文書を読ませ、「この規制要件をアプリケーションにどう適用すればいいか?」というプロンプトで、コード改変の計画を作ってもらう。その際、その要件がコードのどこにどんな形で反映されているかを示してもらうことができる。また、コード変更前と後の違いも確認しようと思えば、それもできる。使い慣れた環境で、Geminiに複雑なことを任せられる。それがReActループの良いところだ。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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