オムロンが間接材調達改革でSAP Ariba導入を実現した。グローバルで154社を抱える同社は、過度なカスタマイズを抑制し「Fit to Standard」を徹底。現場の反発を和らげるため、コスト削減ではなく効率化を訴求する工夫を施した。カタログ化率46%、PO率63%を達成し、6つの重点品目でカテゴリーマネジメントに着手。前回の一過性削減の反省から、今回はルールと規律の強化により持続可能なコスト最適化を目指す。2025年8月6日開催の「SAP NOW AI Tour Tokyo & JSUG Conference」で佐々木正男氏が成果を報告した。
旧ERP導入時の反省から意識したAriba導入での「Fit to Standard」

工場の自動化を中心とする制御機器を中心に、多岐にわたる事業を展開しているオムロン。2024年度の連結売上高8018億円、その過半数が海外事業由来のものになる。グループ会社数はグローバルで154社、従業員数は2万7000人。1933年に京都御室で創業して以来、今では日本を代表するグローバルメーカーに成長した。同社の組織体制の特徴はカンパニー制を採用していることだ。1999年、各事業の専門性を高めることを促すためカンパニー制に移行し、現在は「制御機器」「ヘルスケア」「社会システム」「電子部品」「データソリューション」の5つのカンパニーそれぞれが、独自に顧客価値向上に注力する体制で事業を運営している。
間接材調達改革に取り組むにあたり、オムロンが選んだ製品がSAP Ariba(以降、Ariba)である。直接材の場合と同様に、間接材調達では豊富な専門知識が求められるが、調達品目は数も種類も多いため、統制を利かせた調達は難しい。さらに、同社のように、グローバルで事業を運営し、かつ各カンパニーの独立性が高い組織ともなれば、改革の難易度は高くなる。仕組みを支える製品選定では、グローバルでの調達業務改革を進める上で最適な製品であることが重視された。
オムロンのAriba導入では、フェーズドアプローチを採用し、2019年の北米(米国とカナダ)、2020年の国内の各カンパニーへと順次展開を進めた。2025年8月現在、グローバルERPの刷新プロジェクトを進めている関係で、他の地域への展開はSAP S/4HANA Cloudへの移行完了後の再開を予定している。プロジェクトリーダーを務める佐々木正男氏(オムロン株式会社 グローバル理財本部 理財DX推進部 間接材購買プロセス改革プロジェクト グローバルリーダー)は、「Ariba展開では、最初に導入した北米でグローバルテンプレートを作り、過度なカスタマイズを抑止する工夫をした」と話す。その後の日本での展開では、グローバルテンプレートの参照を必須とし、拡張要望をプロジェクトに伝えるときは、必ずCCB(Change Control Board)という会議体での審議にかけ、その承認を得て初めて対応する運用にした。
グローバルテンプレートの基になる北米の考え方と、日本の考え方にギャップを見つけても、可能な限りグローバルテンプレートを維持するようにした。これは以前のERP導入時にアドオンが増えすぎた反省によるもので、グローバルテンプレートを「Fit to Standard」の徹底に役立てようとする考えに基づく。
本社主導の改革に付き物の現場の反発を和らげた工夫
一般に、間接材調達改革を行うとき、「もし研究開発に遅れが出たらどうしてくれるのか?」「付き合いの長いサプライヤーさんが困るんだよね」など、現場から強い抵抗に遭うことが予想される。また、オムロンのようなメーカーの場合、伝統的に現場でのカイゼン活動が盛んという事情も、グループ全体の最適化を行いたい場合の阻害要因になる。そこにAribaのようなSaaSを導入し、業務を標準化しようとすれば、「これまで小さな工夫を積み重ねてやりやすい形になった業務が全くできなくなるのか?」と、反発されることもあるだろう。オムロンの場合も、現場から多くの否定的な意見をもらったが、SaaSの導入で保守負担が不要になること、代替案を用意することなど、佐々木氏の丁寧な説明を通して、最終的にはグローバルテンプレートの維持に成功したという。
また、Ariba導入時の現場への説明では、あえてコスト削減を強調することを避け、代わりに「この仕組みを導入する目的は、デジタル化で調達プロセスの効率化の実現である」と、関係者の業務が楽になることを訴求した。コスト削減のためにAribaを導入すると伝えたとしても、すぐには実現しない。支出データを分析し、サプライヤーと交渉し、良い条件を引き出してと、段階を踏むことが必要だ。チェンジマネジメントの観点でも、効率化や負担の軽減のような肯定的なメッセージを訴求する方が望ましい結果につながる。新しい仕組みを前向きに使ってもらうこと、それができて業務の効率化ができると、佐々木氏は考えた。
Ariba導入プロジェクトの立ち上げにあたり、佐々木氏が選んだKPIは「カタログ化率」「コンプライアンス発注率(以降、PO率)」「SAP Ariba利用率」の3つである。カタログ化率とは、カタログの中の品目をどれだけ充実させられたかだ。カタログ品目を購入する時は、調達先の選定や見積りの手間が不要になる。そして次のPO率は、システム上でPurchase Orderコードの取得を購入前の条件にし、どれだけ該当取引を増やすことができたか。最後のSAP Ariba利用率は、ユーザーやサプライヤーがどれだけAribaを使って取引を実行したかになる。取引プロセスの途中でまごつかないよう、別途WalkMeを導入してガイダンスを提供し、関係者全員が気持ちよく新しい仕組みに移行できるようにした。

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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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