キリンはAI時代を「データメッシュ」で戦う──独自生成AIの活用拡大で新たに挑むマネジメントの現在地
「今が組織変革の最大のチャンス」AI活用を起点にデータの“当事者意識”向上を狙う
「今が意識改革の最大のチャンス」AIがキリンの縦割り・サイロ化を打破するカギに
そのうえで、同社内でデータ活用において長年課題とされてきたのが、現場社員一人ひとりのデータ品質向上に対する「当事者意識」の醸成だ。過去には、部門間の縦割り意識や「このデータは他部署には渡さない」といった意識が部署ごとにあり、データのサイロ化が生じていた。また、データを共有することで他部門からの要求が増え、自らの仕事が増えることを嫌う傾向も一部では見られたという。
しかし「BuddyAIの大規模展開が、この意識を変革するチャンスとなっている」と石浦氏は意気込む。AIで業務を便利にするためにはデータを共有する必要がある、という意識が生まれており、社員たちの機運も高まっているとのことだ。
「社員は、AIツールを使う中で“データのあり方が不適切だと、AIがうまく認識してくれない”ことを肌で感じ始めている」と同氏。その結果、たとえばExcelベースの申請書があると、「これはExcelである必要があるのか」といった疑問を持ち、業務プロセスの見直しを行うきっかけが生まれているという。一方的に、「DX推進のためにマインドを変えよう」と訴えるだけでは変わらなかった風土が、AIがもたらす利便性という価値により、主体的な意識変革として現れているのだ。
また、データガバナンスや品質向上といった地道な取り組みは、直接的な投資対効果(ROI)が見えにくく、経営層の理解を得るのは難しい。キリンでも、過去にメタデータ管理ツールの導入検討が、何度も浮上しては消えてきた。一方でここ最近は、主語を「人」から「AI」に変えることで経営層にも取り組みの意義が理解されやすくなったと石浦氏は語る。
「『この取り組みは、AI活用をより良くするために必要なものだ』と伝えると、経営層の理解も得やすくなるんです。現在、当社では経営層も既にAIを利用し、その価値を享受しています。AIの価値を最大化するためにはデータが重要であり、データ管理ができていないと競争に後れをとるというロジックは、経営層にも極めて分かりやすいものとなっています」(石浦氏)
データ活用をよりビジネス価値の創出につなげるために、キリンはここ数年のうちにシームレスなデータ連携の実現を目指すという。その最終的なゴールとして、「BuddyAI」の開発で培った知見を基に、より自律的に動く「エージェンティックAI」の実現を目指す。
「エージェンティックAIの実現は、KDV2035で掲げた『会社や組織の業務をAIに置き換え、生産性を飛躍的に向上させる』という目標を達成するためにも不可欠だ」と石浦氏。これを実現するには、データをシームレスに使い、ビジネスメタデータを含めた情報のコントロールを適切に行う必要がある。それが今後の、データマネジメントの最大のミッションとなるだろう。「社内的な機運が高まっている今をチャンスと捉え、エージェンティックAIに向けた足場作りを着実に進める」と同氏は展望を語った。

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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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