日立製作所(以下、日立)は、Lumada 3.0の現場適用を強化するエッジAI技術を開発したと発表した。
同技術は、画像・音・振動などのセンサーデータの処理を一つの半導体チップに高密度に集積し、省電力かつコンパクトな実装を実現しているとのことだ。また、先端システム技術研究組合(RaaS)が提供する設計試作環境を活用することで、同程度の処理速度のAI半導体と比較して消費電力を約10分の1に抑えることに成功したという。
これにより、電源供給や設置スペースに制約のある現場でも、エッジAIによるリアルタイムデータ解析が可能となり、設備の安定稼働や生産性向上、品質管理の高度化を実現するとしている。今後は、半導体製造を行うパートナー企業との連携などを通じて、同技術を自社の検査装置や外観検査ソリューションなどに展開し、デジタライズドアセットの価値向上を目指すとのことだ。これにより、現場で収集したデータを価値へと変換し、産業分野や社会インフラの高度化、持続的な成長、社会価値の創出に貢献すると述べている。
また、大規模なシステムで活用されるGPU4などのAI半導体と、現場に最適化した同技術を組み合わせることで、クラウドから現場まで一貫したAI処理基盤を提供するとしている。
従来のエッジAIシステムでは、消費電力や設置スペース、複数センサーのデータ処理に課題があり、現場への実装が進みにくい状況だったという。今後、現場データをリアルタイムで活用し、持続可能な社会や産業の変革を実現するためには、より高効率なAI処理基盤が必要だと同社は述べている。
同技術の特徴は以下のとおり。
1. 省電力でエッジでのAI処理を可能にする回路技術
産業現場やIoT機器では、電源や設置スペースに限りがあるため、消費電力の低減と小型化がAI導入の課題となっていた。日立は、産業用設備の異常検知や検査アプリケーションに最適化した半導体回路設計と、RaaSが提供するFinFET CMOS設計試作環境を活用して製造することで、従来の同等の処理速度のAI半導体と比較して、消費電力を約10分の1に抑えたとのこと。具体的には、センサー信号を画像に変換して、AIエンジンを画像認識用ニューラルネットワークの演算に最適化した回路で効率的に動作させるとともに、演算の中間結果をチップ内のメモリに格納してチップ外への書き出しを不要とし、データ移動によるエネルギーを削減することで、消費電力を低減したという。
また、これらの機能をセンサーインターフェースであるA/D変換器とともに一つのチップに高密度に集積することで、コンパクトな実装を実現したとのことだ。これにより、電源供給や放熱用のスペースに制約のある現場でのAI処理が可能になるとしている。
2. 一つのチップで多様な現場データの統合・解析を可能にするセンサーフュージョン技術
従来、現場で使われる複数センサー(画像、音、振動など)から得られるデータは、それぞれ別々に処理されることが多く、異常の早期発見や複雑な現象の把握には限界があった。また、これらのデータをまとめて解析しようとすると、大型の装置や多くの電力が必要となり、現場への導入が難しいという課題があった。今回開発したセンサーフュージョン技術では、独自の低電圧・小面積アナログ回路技術を活用することで、多数の高性能A/D変換器をAIエンジンと一つのチップに集約し、リアルタイムかつ省電力で解析できるという。たとえば、画像データだけでなく機械のわずかな振動や異音も同時に捉えて統合・解析することで、従来は見逃されやすかった微細な異常や複合的な変化を検知できるようになるとのことだ。
確認した効果
開発技術を適用したAI半導体を、半導体ウェーハの欠陥検出やモーターベアリングの異常検知などの作業に適用した結果、同程度の処理速度のAI半導体と比較して、消費電力を約10分の1に抑えられることを実証したという。加えて、ウェーハ表面に形成される微細なパターンの欠陥やベアリングの複数箇所で生じる微小なキズなど、わずかな異常を誤りなく検出できることを確認したと述べている。
今後の展望
日立は、同技術をLumada 3.0を支える中核技術の一つとして位置づけ、半導体検査装置や外観検査ソリ ューションなどをはじめとするデジタライズドアセットの高付加価値化を目指し、様々な産業分野や社会インフラのプロダクト、サービスの高度化に展開していくという。また、半導体製造を行うパートナー企業との連携やエコシステムの構築を通じて、現場のリアルタイムデータ活用やAI処理の高度化を加速するとのことだ。
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EnterpriseZine編集部(エンタープライズジン ヘンシュウブ)
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