日本企業の「人への優しさ」がAI活用の足かせに?経済産業省が官民連携で進める“現場データのAI化”
「全員AI人材」を実現している先進企業事例から学ぶ教訓
STT GDC Japanは2025年11月11日、イベント「Practical Insights」を開催。本記事では、イベントに登壇した経済産業省 渡辺琢也氏の講演「経済産業省のAI政策の動向と展望」で語られた日本企業のAI活用における現状課題やそこに対する経済産業省のアプローチなどを紹介する。人口減少や少子高齢化、デジタル赤字といった課題が山積みな“課題先進国”である日本で、AI活用はそれらの課題を打破するカギを握っている。渡辺氏は日本企業でAI・データ活用が思うように進まない要因をどのように分析し、次の一手を示したのか。
「人に優しすぎる国」だからこそ難しいAI活用
人口減少・少子高齢化という構造的な課題に直面している日本。2010年を境に日本の人口は減少に転じ、生産労働人口とされる15〜64歳人口は、2020年から2040年にかけて約2割減少するとの推計値が示されている。人手不足が深刻化し、労働時間規制も存在する中、生産性の向上はまさに死活問題であり、AI活用は避けて通れない。
これに加えて、日本は「デジタル赤字」の拡大という経済的な問題も抱えている。デジタル関連収支は、2014年の2.1兆円の赤字から、2024年には6.7兆円にまで拡大する見込みだ。これは、著作権等使用料(OSやアプリケーションのライセンス料など)や、通信・コンピュータ・情報サービス(クラウドやソフトウェアの委託開発など)といったデジタルサービスを海外に依存している状況を背景としている。
このような状況下、政府はどのような策を講じているのか。経済産業省でAI産業戦略室長を務める渡辺琢也氏は「今日のAI技術の進化が、これまでの情報技術の発展とは一線を画す“転換点”にある」と語る。情報技術はメインフレームから始まり、パソコン、インターネット、クラウドを経て、現在はDX・AIの時代という「第7の波」にあたる。これまでは、デジタル技術が必ずしも人間のニーズを満たせていない状態が続いていた。
しかし、生成AIの登場により状況は一変。技術レベルが人間の求めるレベルを凌駕し、「ニーズ・発想が技術に追いついていない状態」という逆転現象が起こりつつあると渡辺氏は見解を述べる。
この技術的なパラダイムシフトを背景に、同氏は以下の仮説に基づく政策の必要性を強調した。
- 人と道具の関係性の抜本的な見直し:業務・価値創出はすべて「情報処理」の連続だ。生成AIは、この情報処理の変換方法を自動的に生み出す画期的な道具であり、そのパワーを活かすには、人と道具の関係を根本的に変える必要がある
- AIを前提とした業務プロセス、組織構造、意思決定、価値提供の再設計:従来の「人を中心に構築されたプロセス」にAIが補助的に関わる「AI導入フェーズ」ではなく、「AIエージェントを中心に構築されたコアプロセス」で人間が補完する「AI駆動フェーズ」への移行が、AI技術のパワーを引き出すカギとなる
- 「IT投資=コスト」構造の打破:従来のIT投資は、事業会社が業務効率化のためにシステム開発をITベンダーに丸投げし、結果としてIT人材の過度な偏在、オーダーメイドシステムの乱発、ベンダーロックインといった問題を引き起こしてきた。しかし、今後の企業の成長のためにはその考え自体を改めなければいけない
「情報システムに人や業務を合わせるのではなく、人や業務の方に情報システムを合わせるという、日本が非常に“人に優しい国”だからこそ、いくつものカスタマイズシステムができてしまいました。そのカスタマイズによってベンダーロックインが起こり、研究開発などに資金を回せないといった状況まで引き起こしている。この構造が、これからのAI、データの活用において非常に大きな足かせになります」(渡辺氏)
この課題を克服するためには、ノーコード/ローコードといった特別なスキルがなくてもユーザーサイドでシステムを構築できる技術の発達などを追い風に、事業会社自身が「何をやりたいか」を起点にデータの活用を主導し、情報システム構築をベンダーに依存する構造から脱却することが不可欠だ。
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