イオン×ファミマが議論、小売業界におけるAI活用の実態──ボトムアップ型で進めた施策の裏側と現状課題
AI活用における社内浸透のカギは「誰が語るか」 実際の事例から、成功の秘訣を学ぶ
AIの普及が急速に進む中、多くの企業が「いかにして現場にテクノロジーを浸透させるか」という壁に直面している。特に膨大な従業員を抱え、多様な店舗形態を持つ小売業界において、その難易度は極めて高い。2026年1月19日、エクサウィザーズが主催したイベントには、小売業大手のイオンとファミリーマートが登壇。本記事では、両社の具体的な取り組みから、これからの小売業界におけるAI活用のあり方を紐解いていく。
イオンが進めた生成AI活用、しかし社内浸透は一筋縄ではいかず……
リテール業界におけるDXと聞くと、大規模な需要予測システムや物流の完全自動化といった壮大なプロジェクトを想像しがちだ。しかし、イオンのICT企画チームでイオンデジタルアカデミーを担当する沖中優宜氏は、別の視点を提示する。
連結従業員数約620,000人、約18,000店舗を擁する巨大組織であるイオンでは、アプリ開発やデータ分析基盤の構築など、トップダウンによる大規模なDXが着実に進んできた。その一方で、各店舗や各部署には、DX化が難しいアナログ業務が無数に残されているという。
自身もかつて鮮魚の部門で魚を捌いてきた沖中氏は、「現場の課題は現場の人にしか解けない」と語る。大規模なシステム投資では拾いきれない、日々のエクセル集計や手作業による名簿確認といった小さな不便が現場の疲弊を招いている。これらを解決するには、テクノロジーの強制ではなく、現場のメンバー自らが主体的に業務変革に挑む文化、すなわちボトムアップの変革が必要不可欠であった。
その変革の主体となっているのが、2021年に立ち上げられたイオンデジタルアカデミーだ。これは、経営層からアルバイトまで、イオングループに携わるすべての従業員を対象に、デジタルスキルに関するウェビナーやトレーニング、情報交換の場などを提供する組織。社員が主体的に動く手助けをすることで、ボトムアップ型のDXを加速させる狙いである。
同社における生成AIの活用も、ボトムアップ型で推進されているという。グループ内で統一されたAIを一律で利用するのではなく、各現場の課題に対して有効なAI活用を進めていく方法で進めている。当初は、経営層からもAI活用による費用対効果創出の難しさやセキュリティリスクの懸念など、マイナスな声も数多く上がった。しかし、「使ってみなければわからない」という考えのもと、2024年より社員1,000名がAIの試運転をできる環境を構築した。
この取り組みが功を奏し、各現場・各社でAI活用のユースケースが共有されるように。それにあわせて、デジタルアカデミーではAIを安全に活用できる環境を3〜4パターンほど用意し、より社員がAIを活用しやすい環境提供に励んだという。
この経験も相まって、今後も順調にAI活用が進むと思われていたが、「そう簡単にはいかなかった」と沖中氏は明かす。現場社員からの「すぐに使えるプロンプトのテンプレートが欲しい」という声を受け、アカデミーメンバーは満を持してAI活用者の優秀なプロンプトを集め、それをテンプレートとして公開した。
しかし、実際にテンプレートを公開した後は「自分の業務にフィットしない」「思った通りの回答が出ない」という声が現場から上がり、活用がうまく浸透しなかったのだ。この原因について、沖中氏は「単なるテンプレート公開を進めてしまい、現場のメンバーがどのように生成AIと向き合えばよいのかという“姿勢”まで伝えることができていなかったから」だと分析する。
「テンプレート化するべきはプロンプトではなく、生成AIとの向き合い方だ」という方針を掲げ、アカデミーは戦略を刷新。毎月30分・昼の時間帯にオンラインで行っていた勉強会の講師を、アカデミーのメンバーが務めるのではなく、現場で実際にAIを使いこなしている従業員が務め、等身大の言葉で失敗と成功を語ってもらうようにした。
また、AI活用を進めてはいるものの成果が出ずに悩んでいる社員の助けになるべく、情報交換ができるコミュニティを作った。エラーが発生した際の対処法といった技術的な相談から、上司に活用を促すための説得方法といった悩みまで、幅広く本音を言い合える場所の提供を目指したという。
この記事は参考になりましたか?
- EnterpriseZine Press連載記事一覧
-
- イオン×ファミマが議論、小売業界におけるAI活用の実態──ボトムアップ型で進めた施策の裏側...
- 民主主義世界のAI主権を勝ち取れ!元NATO事務総長/元デンマーク首相が新共同体「D7」創...
- 孫正義の「AIぶっ込み」どう思う? LINEヤフー川邊会長・元ヤフー社長 小澤氏が見るAI...
- この記事の著者
-
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
