“全銘柄停止”の悪夢から5年──CIOが「4代目株式売買システム」で見据える“攻めのJPX”への道筋
復旧時間を150分から90分に:システムへの過信を捨てたレジリエンス向上の軌跡
復旧時間を150分から90分に:「クリーンスタート」を支える富士通とのSRE体制
レジリエンスを強化したことによる具体的な成果の一つが、障害発生時のシステム再立ち上げ時間の短縮だ。2020年の障害時は、データの不整合などにより、当日の注文をすべてリセットして再開する「クリーンスタート」の判断や手順が確立されていなかった。結果として、未確立の手順を断行することによる混乱を避けるため、当日中の復旧を断念することとなった。
arrowhead 4.0ではこの手順を整備し、再立ち上げ時間(システムを一度中断してから再度立ち上げ、売買を再開するまでに必要な所要時間)を従来の150分から90分へと短縮した。田倉氏は「日本の取引時間は15時30分までと限られています。復旧に150分かかってしまうと、午後の早い段階で止まった場合に、当日の再開が間に合わない可能性がある。時間を短縮することで、当日中に取引を再開できる可能性を高めました」と述べる。
システムに加え、運用監視体制も強化された。通常の運用ラインとは別に、開発ベンダーである富士通と東証の有識者からなる「SRE(Site Reliability Engineering)チーム」を新設。障害発生時などに即座に解析と対処方針を決定できるよう、両社のエキスパートが物理的に同じ場所に常駐する体制を整えている。
arrowhead4.0開発のプロジェクト進行において、田倉氏たちが最も重視したのは「要件定義」の完成度だった。
「私たちは『詳細設計書ではなく、要件定義書がバイブル』とのルールでシステム構築を進めました。要件定義書に明示的に書いていないことは実装しなくていい、行間を読むな、と。その分、徹底的に要件定義の完成度を高めました」(田倉氏)

開発パートナーである富士通とは、初代arrowheadの頃から「ワンチーム」の体制を敷いてきた。かつては開発拠点ビルの19階と20階にオフィスを構え、物理的にもかなり近い距離で開発を進めてきたという。arrowhead4.0の開発時も、そのワンチームの関係性は変わらない。JPX、富士通両社の社長が参画する経営トップレベルの会議(プレジデントレビュー)を設置し、全社的な重要プロジェクトとして推進された。
arrowheadのプロジェクトに関しては、「いつかやる」といった曖昧さを排除することを徹底したと田倉氏。システム部門だけでなく業務部門も含め、arrowhead開発に関わるタスクをすべてプロジェクト管理下に置くことで、全社一体となってリリースに向けた準備が進められた。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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