規制と変革のジレンマに陥った欧州、珍しい国際戦略を打ち出した中国……市川類氏が世界のAI政策を総括
2025年の動向を踏まえ、2026年に注目しておくべき政策動向とは?
国際大学GLOCOMは2026年1月20日、東京科学大学/一橋大学 特任教授の市川類氏を迎え、「世界のAI政策を巡る最近の動向と日本のAI戦略の国際的位置づけ」と題したオンラインセミナーを開催。世界主要各国のAI政策は、2025年に大きく変化した。本稿では、海外主要国を対象に、それぞれの政策動向の変化を振り返る。
バイデン時代の政策を全否定したトランプ政権、AI政策動向はどう変化した?
冒頭、市川類氏は「2025年の世界のAI政策動向は、『規制から推進への転換』が明確になった」と説明した。AIに限らず、新しい法律を作るときはリスクの特定から始まる。人類滅亡のような極端なケースを想定した問題提起は後退した一方、民主主義への悪影響や経済格差の拡大などのリスクを指摘する意見は健在である。加えて、国境を越えてのサイバー攻撃リスクなど、安全保障の観点がより重要になったことが、2025年における各国の大きな政策転換に影響した。
東京科学大学 データサイエンス・AI全学教育機構 特任教授/一橋大学 イノベーション研究センター 特任教授
市川類氏
なぜ政策転換が起こったのか。「米国の政権交代だけではなく、テクノロジー産業の構造が変化したことが根本にある」と同氏は語る。LLM開発競争に投資できる企業は、米ビッグテックに限られている。この限られた数社にとっては、規制があるほうが新規参入を排除できるため都合が良い。しかし、シリコンバレーを中心にAIスタートアップが成長してきたことで、規制の悪影響を懸念するように変わったとみられる。
この1年間の米国におけるAI政策を振り返ってみよう。まず、2025年1月の第2次トランプ政権の発足後に目立ったのは、バイデン時代の政策の全否定であった。トランプ大統領が大量の大統領令にサインをしていたことは、記憶に新しいだろう。バイデン政権時代との相違は、ガバナンス分野において顕著である。
たとえば、2025年7月に発表した「AI行動計画(AI Action Plan)」では、競争力強化を打ち出す反面、「プライバシー」や「公平性」など、市民保護の観点からの文言が消えた。そして同計画の発表とともに、米国製AI技術の輸出促進に関する大統領令が発令されている。
「同盟国への輸出まで踏み込んだのは、大きなポイントです。一方で、DeepSeekショックが米国の政策動向に大きく影響しました。米ビッグテック企業は、政府に対して国内の規制緩和を強く求めるようになったのです」(市川氏)
最近の動きにおいて重要なのが、2025年12月に出た「AI国家政策に関わる大統領令(Ensuring a National Policy Framework for Artificial Intelligence)」だ。背景には、州政府のAI規制がビッグテック企業の競争力へ及ぼす影響力を懸念したことがあるとみられる。
というのも、カリフォルニア州とニューヨーク州が連邦政府とは異なる独自の道を選択した。カリフォルニア州では、議会が採決した法案に対して2024年9月にニューサム知事が、AIスタートアップのイノベーション促進の観点から拒否権を行使。その改訂案に該当するものは2025年9月に議会を通過し、2026年1月から「最先端AI安全開示法(Transparency in Frontier Artificial Intelligence Act)」として施行開始した。
また、ニューヨーク州でも新しい動きがあった。2025年12月に「責任あるAI安全教育法(Responsible Artificial Intelligence Safety and Education Act)」が成立。この州法も、カリフォルニア州のものと基本構造は同様であり、2州の規制が他州のベンチマークになる可能性がある。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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