規制と変革のジレンマに陥った欧州、珍しい国際戦略を打ち出した中国……市川類氏が世界のAI政策を総括
2025年の動向を踏まえ、2026年に注目しておくべき政策動向とは?
中国が進める独自の国際戦略 「AI能力」に焦点を当てた政策の数々
米国の最大の競争相手である、中国の動向はどうか。中国の「生成AIサービス管理暫行弁法(生成式人工智能服务管理暂行办法)」は、2023年7月の法案提出から、8月には施行開始というスピード感で整備が進んだ。統治体制の関係で、トップダウンで意思決定を実行しやすいことが背景にあるが、当然ながら制度設計の思想は欧州とはまったく異なる。
同弁法の目的は、生成AIの健全な発展と安全な活用を促進すること。社会主義の核心的価値観に反する情報、国家の安全やイメージを損なう情報、虚偽有害情報の生成を禁止している点が特徴だ。元々、既存のディープフェイク規制の延長線上で整備した関係で、コンテンツ表現に焦点が当てられている。また、知的財産権やプライバシーなどの権利保護、生成物へのラベル付け、セキュリティ評価の実施やアルゴリズムの届出などが義務付けられている。
最近の動きでは2025年8月、「AI+」戦略に関連して、「『AI+行動』を深く実施することに関する意見(“人工智能+”行动的意见)」を公開した。「AI+」とは、2015年の「インターネット+」、2019年の「スマート+」に続く中国の国家デジタル戦略であり、AIを中核エンジンに据え、産業全体のデジタル転換を加速させることを目的としている。2035年を目標に、6つの主要分野を設定し、AIが深化、拡大していくためのロードマップを明確にした。
「中国の動向でおもしろい点は国際戦略にある。途上国支援のための国際協力志向を明確に打ち出しているところは興味深い」と市川氏は語る。2024年7月には、国連総会で「AI能力構築に関して国際協力を強化する決議」が全会一致で採択されたが、決議案の策定をリードしたのが中国だ。9月には「AI能力構築の国際協力に向けた行動計画」を発表し、12月にはこの計画に基づくAI能力構築の国際協力を目的としたフレンズグループを立ち上げている。また、2025年7月には、「世界AI協力機構(WACO)」を作ろうと李強首相が提案するなど、途上国のAI能力構築支援におけるリーダーシップを発揮すべく取り組んでいる。
同じアジアにおいて、EUのAI法をベンチマークにして制度整備を進めたのが韓国である。同法の成立時は、その影響力がどこまで拡大するかが注目されていたが、実際に追随したのは現時点では韓国だけだ。ただし、2024年末のAI基本法の成立後、施行までの1年で改正が加えられる珍しい事態が起こった。この改正では、むしろイノベーション促進策を中心とする7項目の施策が追加された。また、韓国政府としては産業界からの要請もあり、規制を緩く運用する方針を示している。実際に、規制は予定通り2026年1月22日に施行されたが、事実上1年間の猶予が設けられた。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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