著作権だけではプログラムを守り切れない
今回の裁判は、ベンダーとその社員との間で行われたものでした。しかし、企業のIT担当者やシステムベンダーにとっても、プログラムの著作物性をどのように理解し、どのように保護していくべきかを考える上で示唆を与えているように思います。
特に、機能の新規性や業務上の工夫がどれほど優れていても、それだけでは著作権による保護には直結しないという点は、改めて認識しておく必要があります。著作権が守るのはあくまで「表現」であり、コードの具体的な記述や構造に創作性が認められるかどうかが判断の中心になるからです。
実務の現場では業務要件に基づくシステム開発が多く、どうしても定型的な処理や一般的なコードが多くなりがちです。そのため、著作権だけに依拠して自社の成果物を守ろうとするのは、必ずしも十分ではありません。契約書における権利帰属の明確化、仕様書や設計書の管理、開発プロセスの記録といった、著作権以外の手段を組み合わせてリスクを管理することが重要になります。
また、ベンダー側にとっては、開発したプログラムのどこに独自性があり、どの部分が一般的な技術に依拠しているのかを整理しておくことが、後の紛争予防に役立ちます。企業側としても、外部委託した開発物の権利関係を曖昧にしたまま運用を続けることは避けるべきであり、契約段階での確認が欠かせません。
プログラムの著作物性をめぐる判断は、技術の進展とともに今後も議論が続く分野です。しかし、本判決が示したように、著作権法の枠組みは「機能」ではなく「表現」を保護するという原則に立脚しています。ITの現場に携わる者としては、この原則を踏まえつつ、契約・設計・開発の各段階で適切な対応を取ることが、将来のトラブルを避けるための最も確実な手段になるのではないでしょうか。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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