プログラム自体はありふれた記述だが……
私は、飲食店の業務やシステムについて特段の知識がある人間ではありませんが、原告の言うような各種機能が本当に斬新なものであるなら、なんらかの権利を認められても良いような気はします。
ただ、原告が主張するのは「プログラムの著作権」です。そうなると当然、プログラムの表記法自体に独創性や工夫がないと、著作物とは認められないという考えも成り立つのかもしれません。原告の「機能の組み合わせに独自性がある」という主張と、被告の「コード自体がありふれている」とする反論のどちらが認められるのでしょうか。判決文の続きを見てみましょう。
東京地方裁判所 令和元年5月21日判決
原告は、スタッフオーダー等によって入力された情報をサーバー側プログラムを経由して飲食店用に最適化されたデータベースにおいて一括管理し、レジやキッチンに出力する機能が一体となる点に創作性が認められる旨主張するが、これは、プログラムにより実現される機能が新規なもの、複雑なものであることをいうにとどまり、直ちに当該プログラムをもって作成者の個性の発現と認めることはできない。
出典:裁判所WEB 事件番号 平成28年(ワ)第11067号
プログラムの独自性は、あくまでも「プログラムの書き方」にある
著作物性は、プログラムが実現する機能そのものではなく、あくまでその機能を実現するために書かれた具体的な表現(コード)に現れるということのようです。いかに機能が複雑であったり、新規性があったりしても、それは著作権法上の保護対象とは直接結びつかないという考え方です。
裁判所は、原告が作成したと主張するプログラムの多くの部分について、「一般書籍やインターネット上に掲載されているありふれた記述が大部分を占めている」と評価しており、変数の付け方や条件分岐の構造も定型的で、創作性が発揮される余地は小さいと述べています。もっとも裁判所は、原告の主張する機能についてもその新規性は小さいと評価をしており、その意味でも、原告の主張は弱かったわけではあるのですが。
ただ、この判断の中で問題になったのは「プログラム自体の新規性」であって、機能の新規性は、少なくともプログラム自体の著作物性を主張する論拠とはならないということのようです。
裁判所は判決の中で、原告が「どの部分に創作性があるのか」を具体的に示していない点を重視しています。プログラムの著作物性を主張する以上、どの指令の組み合わせに選択の幅があり、どの記述が個性の発現であるのかを示さなければいけない……。原告の主張は機能の新規性にとどまり、コードの表現としての独自性を特定していないことが、こうした判決を導き出しているといってもよいでしょう。
プログラムの著作物性とは「機能の新しさ」ではなく、コードの表現としてどれだけ創作性が認められるかにかかっているという考え方が、改めて確認された形です。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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