報われにくい組織であっても「挑戦すること」を称える
──トップが旗を振るだけでなく、現場レベルでも変えていく必要がありますよね。
そうなんです。実は、他の総務省地域情報化アドバイザーと共同で「動けない自治体からの脱出ゲーム」という自治体職員向けのワークショップを始めました。まずDX全般の話をして、次にBPRを説明する。そのあとに参加者全員にやめたい、面倒、大変と感じることを付箋に書き出してもらうんです。業務やデジタルと全然関係ないものも出てきますよ。飲み会の翌日に上司への挨拶をやめたいとか(笑)。
そのワークショップの時間内で、庁舎を一周してもらって、誰も見ていない貼り紙など「何のためにあるのか分からないもの」を自分で見つけてもらう。やめられるもの、規則を変えれば直せるもの、デジタルで解決できるものに仕分けして、最後は今年度中に第一歩として何をやるか発表してもらいます。大きなことじゃなくていい。とにかく年度内に実行するところまで落とし込むのが、このワークショップの肝です。
──デジタルを使った改善に限らないんですね。
アナログのアプローチで改善できることも、まだまだたくさんあるんですよ。たとえば、窓口での声掛けを「おかけになってお待ちください」から「本人確認書類をご用意してお待ちください」に変えるだけで10秒短縮できる。支払いまでの間で「キャッシュレス決済もご利用いただけます」と案内すれば、アプリを立ち上げて待っていてくださるので時間短縮につながる。そういう小さな工夫の積み重ねです。
それから、公務員って何でも必要以上に丁寧にやりすぎる傾向があるんですよ。そこで都城市の窓口では、いかにスピーディーに効率よくできるかを競うロールプレイングを開催中です。住民の方も実は丁寧に長々と説明されるより、早く終わってほしいと思っている。お互い様なんです。
──面白いですね。「やるだけ損」という言葉が出るくらい報われにくい組織の中で、どうやってマインドを変えていくんでしょうか。
役所にはどうしても「やった者負け」みたいな感覚があって、チャレンジしたことを評価する仕掛け作りが必要だと思っています。都城市はかつて薩摩藩の地。「薩摩の教え」という人材評価基準がありました。一番が挑戦して成功した人、二番が挑戦して失敗した人、三番が挑戦する人を助けた人。挑戦したら失敗しても二番に来るんですよ。
研修でこれを話すと、みんなちょっと表情が変わるんです。「やるだけ損」を「やって良かった」に変えていくには、挑戦を称え、小さな成功体験を積み重ねていくしかないと思っています。
取材後記:デジタルだけじゃない、都城市の魅力発見!
地域情報化アドバイザーとして全国を飛び回る佐藤氏。今回のインタビューは、佐藤氏の東京出張の合間を縫って翔泳社内で行われた。次回の取材はぜひ都城市で敢行(決して観光ではない)できることを願って、おすすめスポットを教えていただいた。
佐藤氏がまず挙げてくれたのが、都城市立図書館だ。ショッピングモールだった跡地を活かした明るく開放的な空間と、感性を刺激する建築美が魅力で、休日には開館前から学生が列をなすほどの人気だという。
食では、牛・豚・鶏の合計産出額が日本一の肉どころとして知られる都城市。「道の駅 都城NiQLL」では、5,800円のシャトーブリアンステーキバーガーが名物だという。これは絶対に食べたい。2026年1月に霧島酒造敷地内にオープンしたスターバックスは連日渋滞が起きるほどの話題を呼び、スノーピークと連携した関之尾滝のキャンプ場や、プロ野球・ロッテのキャンプ誘致など、観光面でも着実に素材が揃い始めている。
ふるさと納税でも、都城市の存在感は際立つ。2024年の受入額は176億9200万円で全国4位。2014年のふるさと納税リニューアル以降、全国で唯一11年連続でトップ10入りを果たし、直近10年で5回の日本一に輝いている。
デジタルだけが突出しても、経済が回らなければ住民は幸せにはなれない。両輪が揃って初めて、まちは前に進む。都城市の快進撃は、まだまだ続く。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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