誰のためのデジタル化? 職員もWin-Winになる施策を
──効率化など、新しい取り組みを始めるときにITツールを導入することが多いと思います。自治体の購買プロセスって外からは見えにくいのですが、デジタル部門はどのように予算を確保するのでしょうか。
まず、デジタル部門が「これを導入しましょう」と上からおろすと、だいたいうまくいかないんです。現場を知らない人が持ってきたツールはハマらないし、やらされ感では当の現場が一生懸命になれない。一方で、現場目線だけでも、思いが強すぎて、使われないツールや職員が大変になるツールになりがちです。だから都城市では、私たちデジタル統括課がある種の査定役に回っています。必ず現場の課題を捉えてからソリューションを探し、交付金も組み合わせながら予算査定に臨む。現場からの提案を突き返すこともあるので「厳しい」と言われることもあるんですが、使われないソリューションに労力をかけるのが一番疲弊すると考えています。
──査定を通す上で一番のハードルは何ですか?
「税金の呪い」とでも言うべき感覚です。税金で仕事をしている以上、職員が楽になるためだけにお金を使うのはどうかという目が、財政部門から必ずと言っていいほど向けられる。でも公務員の離職が増え、人気も低迷している今、職員が持続可能に働けなければ、地域も持続可能になりません。ですから一番査定を通りやすいのは、住民にとっても良くて、職員の負担も減る、Win-Winの施策。この両方を同時に示せると、話がぐっと通りやすくなります。

約150の自治体が使う“専用生成AIツール” 4コマ作成が人気
──生成AIはどうですか? 今はどうしても職員の効率化という側面が強いと思うのですが。
まさにそこが難しくて、特に小規模自治体では財政部署からネガティブな反応が出やすいのが生成AIなんです。ただ、挨拶文を書いたり、計画書を作ったりと、行政が文書作成に膨大なリソースを使っているのは明らか。これはもうさすがに、生成AIを使わなきゃ損だろうという段階に来ていると思っています。
──都城市は生成AI活用でも全国をリードし、シフトプラス社と共同でLGWAN環境に対応した生成AI活用プラットフォーム「自治体AI zevo(以下、zevo)」を開発されていますよね。職員への生成AI普及はどう進めているのですか?
全員対象の大規模研修はやっていません。たとえば50歳以上限定や保育士限定、消防職員限定といった具合に対象を絞り、そこに合わせたユースケースを用意しています。自分の業務に直結することだから、他人事感がなくなるんです。
使っていない人を無理に追いかけないことも大事です。議会シーズン前には想定質問の作成、年度末には引き継ぎ書類の整理など、「今がまさに使い時」というタイミングを見計らって告知する。そうすると自然と使ってもらえるようになるんです。
──行政では正確性が強く求められますが、ハルシネーションへの不安はどう乗り越えましたか?
実のところ、無意識に間違ったり著作権を侵害してしまったりするのは、人も同じなんですよね。だから従来のダブルチェックを強化するきっかけにしています。また研修では、「AIに丸投げしない」「最終判断は人がやる」ということを必ず伝えています。AIを神格化しすぎず、あくまでも自分たちの判断を補助するツールとして使う。そこをしっかり腹落ちしてもらうことが、AIと正しく付き合う近道です。
──具体的にはどんな業務で生成AIを活用しているんですか?
zevoには職員が作ったプロンプトをみんなで使い回せる機能があります。人気上位には、国の通知文書を読み解くもの、議事録から「えー」「本当に」などの口癖も含めて整形するもの、施策を4コマ漫画で表現するものなどがありますね。
──4コマ漫画って面白いですね。
4コマ漫画って起承転結がはっきりしていて分かりやすいじゃないですか。そのフォーマットをプロンプトに組み込んで、施策を端的に伝える4コマ漫画を生成できるようにしたんです。自治体の文章って、読み解くのに時間がかかりますよね。もはや伝えるためというより、文句を言われないための文章になってしまっている。それを4コマ漫画にすることで、いかに要点を伝えるかに発想が切り替わるんです。
4コマ例:オンライン転出(提供:都城市)
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──zevoは今や全国150近くの自治体に導入されているんですよね。
どのプロンプトが使われているかを見ると、他の自治体が何に困っているか手に取るように分かります。私が地域情報化アドバイザーとして全国各地を回る中で「こういうプロンプトがほしい」という声を拾ってzevoに反映することもあり、一つの自治体の知見が全国に循環していく仕組みになっています。
参考になったプロンプトに「いいね(ハートマーク)」を押せる機能もあって、これが地味に励みになる。やるだけ損になりがちな公務員にとって、誰かに感謝されている実感は、思った以上に大きいんですよ。
──総務省が自治体にCAIOの設置を呼びかける中、都城市では市長がCAIOを兼ねています。技術に詳しい専門家ではなく、トップがCAIOを担うことの意義は何ですか?
新しいチャレンジに対し、「失敗を恐れず突き進もう」と言えるのはトップだけです。縦割りを越えて全部署を動かし、地域企業を巻き込み、このままでは地域が続かないと強い思いをもって旗を振る。それは市長だからこそできること。技術は外部と組めばいい。
実は、市長をCAIOとした途端、パートナーとなり得る企業からのアプローチが増えたんです。「話が早そうだ」と思ってもらえているんでしょうね。AIは技術革新が激しく、スタートアップも急増している分野ですから、常に新しい動きをキャッチアップしていきたいと思っています。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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