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IBMは総合戦で「AIファースト」企業への転換促進へ
IT部門にとっては、先述した4つの要素をいかに既存システムと融合させていくか、頭を悩ませることになるだろう。既存のIT資産を活かしながらガバナンスの効いたAI活用を促進するため、IBMは主要なクラウドプロバイダーとの戦略的パートナーシップも拡充している。
AWSとは、新たなサービス「IBM Enterprise Advantage on AWS」の提供が開始された。これはIBM ConsultingのAI基盤「Advantage Platform」をAWS上に展開することで、Amazon BedrockやAmazon SageMaker AIなど、AWSのネイティブサービスとシームレスに連携させていく。これによりAWS環境のセキュリティやアイデンティティ管理機能を活かしつつ、AIエージェントのオーケストレーションやコンテクスト管理を実現していく形だ。また、Oracleとの提携拡大においては、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)上でRed Hat Enterprise Linux(RHEL)を直接利用できるようになった。ライセンスの持ち込み(BYOS)によって生じる複雑な管理から脱却するため、Oracle Marketplaceを通じて「Oracle Universal Credits」を利用した調達が可能となる。これらもベンダーの壁を越え、ハイブリッド環境全体のインフラ最適化を推進するための取り組みだ。
もちろん、ITインフラを整えるだけでは、ビジネスの変革は成らない。日本IBM コンサルティング事業本部の川上結子氏が指摘するのは、プロセス変革の重要性だ。
「技術が不足しているのではなく、企業や人の行動が遅れている状態だ。AIを導入する前に業務プロセスを見直し、仕分けしていく。まずは不要なプロセスの削減・自動化に取り組み、AIを適用していくことが大切だ」(川上氏)
しばしば、AI活用においては「ゴミを入れてもゴミしか出ない(Garbage in, Garbage out)」が指摘されるように、業務プロセスが非効率なままであれば、どれだけ最新のAIテクノロジーを導入したとしても投資対効果は高くならない。リアルタイムデータの連携、AIエージェントの開発・継続的な管理、運用の高度化、そしてデジタル主権の確保。これらを統合し、ミッションクリティカルシステムと同様の厳格さで管理するためのアーキテクチャこそがAIオペレーティングモデルだといえる。
IBMのソフトウェア担当SVPであるロブ・トーマス氏は、AIの現在地を19世紀後半の電気の歴史に喩えると、そのビジョンを語った。
「最初に電気が応用されたのは電球だ。そこから30年をかけて電気モーターに至り、工場の組み立てラインへと発展した。勝者となった企業は、電球以上のものを創りだしている」(トーマス氏)
電気モーターを利用して生産プロセス全体を自動化した企業が成功したように、AIを用いてビジネスプロセス全体を変えなければならない。Infragraphによる可視化をベースとして、オープンな基盤によるデータ連携、Concertでインフラを自律化し、Interact Gatewayで安全にエージェントを統制する。そしてSovereign Coreを通じてデジタル主権を維持しながらコンプライアンスを担保する──IBMがねらうのは、AI時代のITとビジネスの在り方を再設計・再構築することだ。
そのためのAIオペレーティングモデルは、決して机上の空論ではないということをIBMはThink 2026で示した。もちろん、広範な取り組み故に、どのようにデリバリーしていくのかは、パートナー各社の手腕も問われる。日本へのローカライズを含めて、日本IBMは実態に即した形で落とし込んでいくためのアプローチを模索する必要もあるだろう。
そして、今まさに日本企業には、ITとビジネスを統合した自社独自のアーキテクチャを描き、それを実装することが再び求められている。
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
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