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企業AIの成功の鍵はモデルではなく「コンテキスト」──アトラシアンが「Team'26」で示した、組織インテリジェンスへの道筋

「Atlassian Team'26」 レポート

 アトラシアンは「企業のAI活用はモデルではなくコンテキストが決める」と説く。JiraやConfluenceに集まる業務の文脈や人のつながりを「チームワークグラフ」としてAIに統合し、組織固有の創造性や意思決定に転化する戦略だ。AI時代の競争優位は、社内の知識や経験をいかに活かせるかにかかっている──この姿勢そのものが「SaaS is dead」論へのアトラシアンからの応答とも受け取れる。

ビジネスのスピードは「コンテキスト×インテリジェンス」で決まる

 2026年5月、米カリフォルニア州アナハイムで開催されたアトラシアンの年次カンファレンス「Team'26」。3日間で行われた100以上のセッションでは、議論はすべて「コンテキスト」という一語に収斂したといえる。

 生成AIの能力が急速に向上し、どの企業も同等のインテリジェンスへアクセスできる時代が現実になりつつある。アトラシアンのマイク・キャノン・ブルックス(Mike Cannon-Brookes)CEOはその構図を「ビジネスの加速=コンテキスト×インテリジェンス」という式に集約した。インテリジェンスはエンジンだが、燃料はコンテキストだ。JiraとConfluenceを通じて20年かけて積み上げてきた組織固有の知識──意思決定の経緯、プロジェクトの文脈、人とスキルの関係性──が、AIの燃料として決定的な意味を持ち始めた。「インテリジェンスはすでにコモディティ化している。モデルはもはや差別化要因にはなれない。差別化要因はコンテキストだ」──マイクCEOは言い切った。

Atlassian 共同創設者 兼 最高経営責任者 マイク・キャノン・ブルックス(Mike Cannon-Brookes)氏

なぜいま「コンテキスト」が競争優位を決めるのか

 コンテキストへの注目はアトラシアンに限らずAI業界全体で高まっている。LLMに外部情報を参照させるRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)やNotebookLMのようなパーソナルツールも近い発想だが、いずれも静的データへの問い合わせにとどまる。OpenAI創設メンバーのアンドレイ・カルパシー(Andrej Karpathy)が2026年4月に提唱した「LLM Wiki」も、LLM自身が知識を相互参照されたページとして編纂し複利的に蓄積させる設計を提案する。コンテキストを資産として育てる発想はAI業界の潮流になりつつある。

 アトラシアンの戦略がユニークなのは、コンテキストを「外から与える」ものとしてのみ扱うのではなく、「組織・チームの日常業務のなかで自律的に積み上がり続けるもの」として設計している点にある。AI責任者のシェリフ・マンスール(Sherif Mansour)氏は「組織の知識、意思決定、好み、スタイルガイド、戦略──それらの集積がコンテキストだ。AIに与えることで、同じツールを使っても自社固有の結果が返ってくる」と定義する。

Atlassian Head of AI & Product Craft シェリフ・マンスール(Sherif Mansour)氏

 汎用AIに同じプロンプトを打ち込めば、返ってくる答えも似通う。しかしそこに自社固有の文脈としての製品戦略や顧客との関係性、過去の意思決定の蓄積を重ねると、精度の高いアウトプットが生まれる。「長期的な競争優位の条件は、コンテキストだ」──シェリフ氏はそう続けた。JiraとConfluenceという既存ツールを「コンテキストの器」として捉え直しAIに接続すること──それがアトラシアンの戦略の核心にある。JiraやConfluenceをすでに使っている組織は、競争優位の素材をすでに手元に持っている、というのが顧客への含意でもある。

 もっとも、長年組織の内外に積み上がったコンテキストは瞬く間に膨大な規模に達し、かえってAIの精度を下げるのではないかという疑問も湧く。キーノート後のインタビューで筆者がその点をぶつけると、シェリフ氏は次のように応じた。

 組織の知識は膨らむほど、いまの意思決定に関わるのはどれかが見えにくくなる──シェリフはまずそう認めた。5年前に作られたHRポリシーが今も有効である一方で、すでに役目を終えたドキュメントが同じ書庫に紛れ込んでいる、というのはどの組織にも起きる話だ。そこで鍵を握るのが、アトラシアンのエージェンティックAI「Rovo」だという。Rovoは単なる経過時間ではなく、ドキュメントに紐づくアクティビティを観察し、最近チームの誰かが触れているコンテキストかどうかを見極めにいく。同じキーワードで内容の食い違う複数の版が見つかる場面でも、利用者がふだん誰と働き、どのチームに属しているかを手がかりに、その人に関わる版を選び出す。20以上のアプリから集まる行動シグナルが、適切なコンテキストを適切なタイミングで届ける──シェリフ氏はそう説明した。

次のページ
JiraとConfluenceが「組織の記憶」になる──チームワークグラフの設計思想

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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...

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