「データ主権」と「精度」を両立する──大和総研、京都大学、みずほFG、KDDIの金融AI実践報告
NVIDIA 金融AI Meet-up with Macnica(後編)
KDDI:MUFGとの協業、堺DCとソブリンAIでの取り組み
イベントの最後に登壇したKDDIエキスパートの樋口裕貴氏は、2008年から続く三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)との協業を「協働2.0」へ引き上げる取り組みを発表した。樋口氏自身は与信モデル構築、位置情報データビジネス、auフィナンシャルホールディングスへの出向を経て、現在はプライバシーガバナンスとAIという「一見対極にある2つのテーマ」を担当しているという経歴が、今回の発表の核心に直結していた。
MUFGとの協働プロジェクトで共通して見えてきた「AIを使いたくても使えない理由」は3つだと樋口氏は整理した。機密情報はクラウドに投入できないという「データの制約」、日本金融実務の細かな規制に汎用モデルが追いつかないという「専門性の制約」、そしてモデルが自動更新されると昨日と今日で回答が変わり業務の説明責任が保てなくなるという「モデル更新性の制約」だ。「グローバルモデルでは対応しきれない機密性・専門性・固定性が求められるユースケースが一定存在しており、“AIを使いたいのに使えない”状態が発生」と端的に明かした。
この3つを解決するためにKDDIが構築したのが、大阪・堺のデータセンターだ。NVIDIAの「GB200」など最新チップと水冷方式を採用し、ELYZA・Gemini・Nemotronなどのモデルを閉域ネットワーク内で運用できる「ソブリンAI」環境を提供する。MUFG環境と堺DCを専用線でつなぐ構成を想定しており、「データは堺DCの外に出ないが、最新のグローバルモデルも使える」という形だ。
追い風として樋口氏が挙げたのが、4月7日に閣議決定された個人情報保護法の改正だ。2年後の施行により、統計情報の作成目的であれば「AI開発等を含む」企業間でのデータ提供が個人の同意なしに可能になる。KDDIが独自技術として保有する「データクリーンルーム」と組み合わせれば、複数の金融機関のデータを安全に統合した金融特化モデルの共同構築が現実味を帯びてくるとした。「単なる夢物語ではなく、堺の環境はすでに実用レベルにある」と述べ、参加者に対してこの構想への参画を呼びかけた。
前半の楽天グループ、ファーストアカウンティング、野村総合研究所、リコーを含む全8セッションを通じて、イベントのテーマ「データ主権と精度の両立」に対する金融業界の答えが浮かび上がった。オープンソースモデルを土台に自社データでファインチューニングする手法が共通の方向性となる一方で、学習データの品質設計、合成データの活用、オンプレミス基盤の安定性検証、そして機密情報を扱うためのガバナンス整備まで、「育てる」段階での課題は多岐にわたることも示された。NVIDIA NIMの本番耐久性が実証され、個人情報保護法の改正が追い風となる中、金融AI実装は「PoC」から「本番稼働」へと明確に軸足を移しつつある。
この記事は参考になりましたか?
- 財務・会計Online Press連載記事一覧
-
- 「データ主権」と「精度」を両立する──大和総研、京都大学、みずほFG、KDDIの金融AI実...
- 金融AIは「使う」から「所有して育てる」へ──NVIDIA、楽天G、NRI、リコーらが実践...
- 新リース会計基準まもなく「強制適用」……この“好機”を単なるシステム刷新で終わらせてよいの...
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
