PKSHA Technology(以下、PKSHA)は2026年6月4日、生成AIの社会的インパクトを観測・分析する基盤「Japan AI Index」構築に向けて、東京大学大学院工学系研究科 松尾・岩澤研究室(以下、松尾研究室)とAnthoropicと協業したと発表。記者発表で、その詳細が語られた。
生成AIの進化と社会実装が急速に進む一方で、国内ではファクトベースでその影響を議論するための定量的な基準、いわゆる「AIのものさし」が存在していなかった。この課題に対し、学術的中立性、LLMの利用実態データ、産業実装の知見を統合した新たな観測インフラ「Japan AI Index」を立ち上げ、根拠に基づく議論の場を日本社会に提供することを目指す。同取り組みは、今後3年間で社会・経済・教育の議論において参照されるデファクトスタンダードな指標となることを目標に掲げているとのことだ。
発表会の冒頭、PKSHA 代表取締役の上野山勝也氏は、生成AIの進化における社会インパクトを3つのステップで説明した。2023年からの「AI Impact 1.0」は言語や知識を扱うLLMの時代だったが、2025年からの「AI Impact 2.0」はAIが自律的に行動してタスクを実行する「LAM(Large Action Model:大規模アクションモデル)」のフェーズへ移行しているという。
同氏はサイバー空間におけるAIコーディングエージェントの台頭や、フィジカル空間で稼働するロボティクス技術の進展を挙げながら、AIエージェントが特定タスクの処理からマルチタスクの実行へと進化し、未来の“働く”形を劇的に変える可能性があると指摘した。
一方で、同社に寄せられる声の約7割が「AIは人を置き換えるのか」「自分の仕事が奪われるのではないか」といった漠然とした不安だという。「こうした現状だからこそ、感覚ではなくファクトに基づいて議論を進めるためのデータ基盤が必要だ」と訴えた。
次に東京大学の松尾豊氏は、「Japan AI Index」の目的や意義を説明。従来の既存社会領域にはGDPや物価指数、失業率、PISA調査といった定量的な指標が存在し、それらに基づいて政策や経営が判断されてきたのに対し、AI領域には客観的な指標が欠けていた。
「Japan AI Index」は、Anthropicが提供する匿名化された「Claude」の利用統計データ(Anthropic Economic Indexを含む)と、日本の公的統計や就業者数、業界別生産性、独立行政法人労働政策研究・研修機構が提供する職業情報ネットワーク「Japan O*NET」などの公的データを突き合わせることで、学術的手法に基づいた継続的な測定を行うものだ。
具体的には、各産業領域におけるAI利活用の進展度、人とAIのタスクの役割分担、業種別の生産性変化、GDPや雇用、賃金との関係性を可視化し、分析ダッシュボードや年次レポートとして発信していく。松尾氏は、「計測できるものは進化させることができる。客観的な指標を見ながら政策や経営の判断をしていくことが通常であり、AI領域でもそのためのインフラを整える」とその意義を語った。
「Japan AI Index」のダッシュボードイメージ
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続いて、PKSHAでCEO室長/AI HRカンパニー長を務める大野紗和子氏から、2026年2月時点のデータを基にした具体的な分析結果が紹介された。それによると、職業ごとのAI利用頻度の国際比較において、日本は「考える業務(技術資料の参照や学習、商談準備、講義準備など)」で世界全体の平均比率より高い数値を示す一方、「動かす業務(既存ソフトの修正、顧客の質問対応、授業外の学習補助など)」では低い数値にとどまるという。
同氏はこの現状について「遅れているのではなく、日本企業の構造的特徴を反映した結果だ」と分析する。日本企業には現場ごとに固有性の高いプロセスや暗黙知による「カイゼン」文化が存在するため、汎用的なAIをそのまま適用するだけでは現場を動かす業務にまで浸透しにくいと語った。
そのため、ただシステムに合わせて業務を均質化するのではなく、独自の対話技術を用いてベテラン社員の持つマニュアル化されていない組織知を吸い上げてデータ化し、人と協働する「AI Powered Worker」を組織的に育成・支援していくアプローチが日本には必須であると述べた。
同プロジェクトは、2026年秋頃に第1回目のレポートおよびダッシュボードの同時ローンチを予定しており、以降は四半期に1回ほどのアップデートで指標の鮮度を維持していく方針だ。また、After AI時代の社会のあり方を横断的に議論するため、業界の枠を超えたリーダーを集めたコミッティの設立も視野に入れている。
大野氏は、「AIの未来をともに考える業界リーダーをまずは10社ほど募集し、密な連携を進めていきたい」と言及した。他国の成功事例を拙速に模倣するのではなく、日本の組織が持つ見えない価値や固有の強みを活かしながら、データを起点とした適切な政策提言や経営アクションのスタンダードを確立していく構えだ。
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