我々の事業とは何か?~What is our business?
出典:「マネジメント - 基本と原則 [エッセンシャル版]」
英語版 「Management, Task, Responsibilities, Practices」
事業の目的である顧客を創り出すためには、そもそも誰を顧客とすべきか、自社はどのような事業に集中すべきか、明快な指針が必要となります。顧客は大手法人顧客なのか中小法人顧客か、はたま個人顧客なのか、それらの顧客はどこにいて、何に価値を感じているのか、などです。ドラッカーは、事業のあるべき像を構想するために、以下のような端的な問いかけを行いました。
1.我々の事業とは何か?(What is our business?)
2.我々の顧客とは誰か?(Who is our customer?)
3.我々の顧客にとっての価値とは何か?(What is value to our customer?)
我々の事業とは何か、何であるべきか、単純な問いかけですが答えるのは容易ではありません。環境が変われば事業も変わる必要があります。ドラッカーは以下のようにのべます。
「自らの事業は何かとの問いに答えるほど、簡単で分かりきったことはないかに思われる。だが、この問いに答えることは、つねに難しく、思考と検討なくしてできることではない」(『現代の経営』)
例えば米国の鉄道会社は、自社の事業を「運輸事業」ではなく「鉄道事業」であると定義したことにより衰退の一路をたどりました。1960年代、米国内の旅客や貨物輸送の需要全体は伸びていました。にもかかわらず米国鉄道会社が廃れていった理由は、鉄道事業そのものを目的としたところに衰退の原因があります。輸送に関わる需要を捉えるためには、事業そのものを運輸事業として定義し、伸張する新たな旅客や輸送のニーズをつかまなければならなかったのです。
あるべき事業とは何か、再定義することで成長したのがIBMです。かつてIBMは汎用機などのハードウェア販売事業が中心でしたが、1997年にe-Businessコンセプトを発表しました。今までは「ハードウェア販売事業」であったが、今後はソリューションを提供する「サービス事業」であるべき、と再定義しました。背景としてITシステムが複雑化したため、単なるハードウェア販売だけではなく、ハードウェア導入に伴うIT関連のコンサルティング需要が生まれたことがあります。事業の再定義とともに自社のソリューション能力を向上させるため、社内教育プログラムも立ち上げました。