稟議突破から“えこひいき”による定着まで──製造/不動産/老舗香料の3社が明かす「Box徹底活用術」
単なるファイルサーバー移行ではない! AI&セキュリティ対策を見据えた“全方位対策”
単なる「ファイルサーバーの置き換え」として捉えると、Boxはコストが高く感じられるかもしれない。では、導入した企業は価格以上の価値をどこに見出し、いかに社内へ定着させているのだろうか。さらに、生成AI機能の「Box AI」をどのように使いこなしているのか。2026年7月16日に開催された「BoxWorks Tokyo + Osaka 2026」大阪会場のセッション「導入して終わり、にしない。老舗/製造/不動産のBox活用のリアル」では、業種も規模も異なる3社のキーパーソンたちが登壇し、実情を語った。登壇後の個別インタビューの回答も交えてレポートする。
「なぜBoxを?」稟議を突破した三者三様のアプローチ
登壇者(五十音順)
- 枝木由希子氏(塩野香料株式会社 DX推進Gr 主任)
- 柏崎正彦氏(株式会社東急コミュニティー 経営戦略統括部 グループIT推進部 主幹)
- 高山百合子氏(株式会社マキタ 執行役員 情報企画部 部長)

香川県で船舶用ディーゼルエンジンを製造するマキタ(従業員数:約400名)がBoxの検討を始めたのは2019年のこと。ちょうどゼロトラスト前提のIT基盤再構築と、Microsoft 365へのグループウェア移行を検討していた。高山氏は「『Boxを入れたい』から始まったのではなく、『こういうIT基盤を作りたい』が出発点でした」と振り返る。各種SaaSにデータを点在させるのではなく、1ヵ所に集約して情報管理をしやすくしておかなければ、5年後に必ず困ると考え、Boxへの集約を決めたという。
1808年創業の老舗香料メーカー、塩野香料(従業員数:215名)は2023年にBoxを導入した。それまでは各種ストレージにデータが点在しており、容量の限界や物理故障の懸念がある状況だったという。さらにセキュリティリスクも抱えており、こうした課題をまとめて解決できる点を評価したと話す。
東急コミュニティー(従業員数:約9,000名)の導入は2019年。ファイルサーバーの容量不足や社外共有、電子化を進めていく上での課題を解決するために置き換えを検討した。決め手の一つはセキュリティ対策として操作ログを取れることだったという。約160台あるサーバーで個別に操作ログを取ろうとすると数億円がかかり、現実的ではない。Boxであれば導入するだけで実現できた。
とはいえ、導入費用は決して小さくない。3社はどのように稟議を突破したのか。
マキタの高山氏は「経理には経理の、営業には営業の視点で響くように説明を変えながら全役員を回りました」と話す。最後の一押しに使ったのが、工数の費用換算だ。Box Business Plusの利用料を1人当たり月額3,000円とすると、20営業日で割れば1日150円になる。「人件費で換算すると、1人が1日3分の無駄を削減できれば回収できます」と示した。総コストだけでなく、1日当たりの金額も示すことで、どれだけの効果を出せばいいかを具体的にしたのだ。
塩野香料の枝木氏もROIを算出したが、金額の大きさだけでは説得材料になりにくいと考えた。そこで、文書管理や社外とのファイル共有など、Boxで置き換えられる機能を具体的に挙げ、複数の課題をまとめて解決できることをアピールしたという。
「社内で困りごとを聞くたびに『それはBoxで解決できますよ』と話していたら、逆に現場から導入を望む声が上がってきて、稟議の後押しになりました」(枝木氏)
一方、東急コミュニティーはROIをあえて出さなかった。約9,000人規模で業務効率化を試算すれば年間何十億円もの効果になるが、それが財務諸表の利益として表れるものではないからだ。そこで柏崎氏が着目したのが、セキュリティリスクと課題の一本化だ。社外共有やモバイル活用、ペーパーレスといった複数の課題に対して個別にツールを導入・運用するよりも、Boxに集約する方がコストを抑えられ、運用もしやすくなる。万が一のファイル消失やウイルス感染に備える「セキュリティ対策費」として予算を確保することで稟議を突破したという。
なお、プランの選び方は3社で分かれた。塩野香料は、改正電子帳簿保存法への対応を控え、文書の保存期間を管理する「Box Governance」と、情報漏えい対策を強化する「Box Shield」が必要だったため、導入当初から上位のEnterprise Plusを選んだ。複数の見積もりを比較すると、Box AIも標準で付くため同エディションは割安だったという。
東急コミュニティーは、AI活用を目的に導入後にEnterprise Plusにアップグレードしている。自前で生成AI環境を整えれば最低でも3~4ヵ月かかるが、Boxならライセンス契約の更新だけで翌日から使えるからだ。
マキタは当初、社外コラボレーターを招待できる機能があれば十分だったため、Business Plusを採用した。現在は、AIエージェント時代のセキュリティ強化のためにEnterprise Plusへのアップグレードを進めているところだという。
マキタは意欲のある人を“優遇” 現場発のカイゼンで活用進む
導入したBoxを社内に定着させる方法もそれぞれの工夫がある。
マキタは、種をまく「仕掛け」、芽が出る「兆し」、そして根づく「安定」までの3段階で考えた。仕掛けの一つが、“意図的なえこひいき”だ。各部門に担当窓口を任命する一方で、意欲の高い部署を先行ユーザーとして優先的に支援した。
「最初の一歩がなかなか踏み出せないのは、Boxがどう役立つかイメージしにくいから。やりたいことがある人に先に成果を上げてもらえれば、周囲が『どうやったの?』と興味を持ち、真似する動きが生まれると考えました」(高山氏)
次の段階の「兆し」は、ワークフロー機能Box Relay(現Box Automate)のフロー名に表れた。当初は「テスト」だったフロー名が、少しずつ実際の業務名に変わっていったのだ。
今では現場での活用が自主的に進んでいる状況だという。実際、例示された6つのうち半分は現場発の取り組みだ。製造業に根づく業務改善の手段として、「Boxのこの機能を使えばいいのでは」と現場が自然に活用しているという。加えて、社内での情シスへ相談しやすい関係性と環境もそれを支える。距離感の近さと声掛けの気軽さが、事例を生み出す原動力になっている。
マキタは、Boxをデータ基盤の入り口としても活用している。Box内の特定フォルダに保存することで、対象ファイルをAWS上の中央データ基盤に自動で連携。PDFや画像などの非構造化データも、画像に適したAIでテキスト化してから取り込むことができる。もちろん、現場作業者がスマホで撮影した写真を直接Boxに取り込み、即時関係者で共有するといったシンプルな使い方も浸透している。
社外コラボレーションの効果も大きい。「初めて使うクラウドサービスが、マキタに招待されたBoxだった」という取引先も少なくないそうだ。中には、メールとFAXのやり取りからBoxに完全移行した会社もあるという。
「やきとりまでやった?」を合言葉に、塩野香料は半年で97%定着
塩野香料では導入から半年ほどで、社員の97%が毎日Boxを使うようになった。製造現場にはパソコンに触れる機会が少ない社員もいるので、かなり高い浸透率だ。
「あれだけ効果があると言って稟議を通したので、使われなかったら困ります。まずはBoxがないと仕事が回らない状態を作ろうと考えました」(枝木氏)
ファイルサーバーの廃止時期を区切って移行を促す一方で、迷わない設計にこだわった。最上位フォルダは、社外共有用のほかに、社内向けに個人用/非公開の共有フォルダ/部門の共有フォルダの4種類だけ。誰と共有するかを考えれば、置き場所が決まる。活用ステップは、たまご(ログイン)からひよこ(ボタン操作)、にわとり(ファイル操作)、やきとり(共有)へと成長する手描きイラストで示し、「やきとりまでやった?」が社内の合言葉になった。
掲示板や週報での発信は50回を超え、ハンズオンの社内勉強会には毎回50名以上が参加。定期の「なんでも相談会」で悩みを聞き、「それならBox Signがありますよ」など具体的な提案を重ねてきたという。
2社の話を受けて柏崎氏は、定着を左右するのは「抵抗の除去」だとまとめた。「導入時は『生産性が上がる』『容量無制限』などをアピールしますが、『本当に使っていいのだろうか』というためらいを取り除いている会社は意外と少ない気がします」と柏崎氏。東急コミュニティーも利用は強制せず、手を挙げた部署にはMicrosoft Teamsのオンライン会議を用意し、柏崎氏も参加して気軽に相談できる場にしている。
東急コミュニティーは「Box AI」で社内問い合わせを簡便化
Box AIの活用で先行するのは東急コミュニティーだ。Box AI Homeが登場した翌月には全社員が使える状態を整えた。Box AI HomeもBox AI for Hubsも、エディションを上げた後から加わった機能だ。「入れておくだけで機能が増えていくのがSaaSの良さ」と柏崎氏は言う。それでも利用者はまだ2割ほど。Box AIの利用者を分析すると、よく使うフォルダをまとめるコレクション機能を使いこなす層とほぼ重なっていた。柏崎氏は「基礎ができていないと応用は難しい。Box AIの教育はコレクションの教育と一緒にやると進みやすくなるはず」と呼びかける。社内向けに伝えているのはプロンプトのテクニックではなく、「普段の会話をそのままAIに聞いてみて」とまずは気軽に使ってみることを促している。
柏崎氏がBox AI Homeで特に優秀と評価するのはファイル検索で、「あのファイルどこだっけ?」と聞くだけですぐに見つかるという。フォルダごとAIにかけて「このプロジェクトの総評を書いて」と頼むような使い方もできる。
社内からの問い合わせが多い人事や総務には、資料を集めたポータル、Box Hubsを用意した。寄せられた質問をまずはAIに投げて回答案を作らせ、そのまま返す。担当者は問い合わせ対応の煩わしさから解放され、回答が間違っていれば資料の置き方や鮮度の問題だとわかるため、更新のきっかけにもなる。
東急不動産ホールディングス株式会社 グループDX推進部 上席主幹/株式会社東急コミュニティー 経営戦略統括部グループIT推進部 主幹/ 一般社団法人日本デジタルアダプション協会 理事 柏崎正彦氏
導入して終わりにしない、“使い倒す”3社が見据える次の目標
データ基盤の入り口としてBoxを使い込むマキタは、Claudeなど外部AIとの連携も既に進めている。外部から大半のことができてしまうため、Box AIについては、メタデータの自動付与などBoxならではの機能を見極めながら、既存環境との使い分けを探っている段階だ。次の1年は「さらに使い倒す」を掲げ、アップグレードで増える機能を端から試しながら、サプライチェーンへのBox活用も推進していく。
塩野香料はBox AIを全社員に開放している。他の生成AIツールもあるなかで、社内でどちらを推すべきか悩んでいたというが、今回登壇者同士のやり取りを通して、「ユーザーは使いやすい方を選ぶので、どちらも推しておけばいいと気づきました」と枝木氏。今後はBox活用を海外拠点にも広げる。プラットフォーム統一「ONE SHIONO」に向け、まずは無償アカウントでクラウドストレージの価値を感じてもらうところから始めるとした。
東急コミュニティーは、社員がBox AI HomeやBox AI for Hubsに入力したプロンプトを収集し、生成AIで事例集にまとめる仕組みを用意した。うまく動かなかったプロンプトの改善方法も盛り込み、AIと上手に会話できる社員を増やしていくという。

最後に、これから取り組む読者へのアドバイスを聞いた。
柏崎氏は「業務効率が上がるというだけでなく、社員の抵抗を取り除く方法を考えてみてください」と呼びかける。続けて枝木氏は「答えやヒントは現場にあります。現場の人と一緒に進めると、新しい道が見えてくると思います」。
高山氏はこう締めくくった。
「こういう状態にしたいからBoxという手段を使う、が正しい順序だと思います。拾う声と流す声の見極めは、どういう状態になりたいのかを持っていないとできません。少し先を見ながら信念を持ってシステム導入をしていくのがいいと思います」(高山氏)
三者三様の道のりに、「導入して終わり」にしないヒントが詰まっていた。
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