現在地と目的地が分かっていないプロジェクトは失敗する──「ITで儲かる計画」を描く実践フレームワーク
第2回:ITを「タマゴを産むニワトリ」に育てる。必要なROIの可視化方法
ITは「金食い虫」なのか、「タマゴを産むニワトリ」なのか──連載「なぜあなたの企業はITで稼げないのか? 橋本将功氏が問い直す“IT戦略のキホン”」では、『IT戦略の基本が全部わかる本』をもとに各章の核心となる主張とフレームワークを紹介しながら、生成AIの時代にこそ問い直すべき“IT戦略の本質”を解説しています。第2回となる本稿では、多くの日本企業でIT投資の成果が可視化されておらず、「コスト部門」として扱われがちな現状を踏まえ、自社のITの現在地と目的地を明確にする「As-Is/To-Be分析」と、IT投資の投資対効果を経営者に示すためのフレームワークを紹介します。
日本のIT投資が「金食い虫」になってしまう本当の理由
連載第1回では、多くの日本企業が国際的に見てもIT投資が不得手であることを統計的な観点から説明し、その原因としてIT投資の意思決定者(発注者)側にITやプロジェクトのリテラシーが高い人材が少ないという産業構造があることを解説しました。そしてこうした状況を打破するためには、それまで日本企業が得意とし、実際に成果に結びついている「モノの生産」に関する投資の考え方をITにも適用し、ITを「コストセンター」や「金食い虫」と見るのではなく、「タマゴを産むニワトリ」へと思考を転換する必要性をお話してきました。
このように説明すると、「工場や生産機械への投資とITは性質が異なるのではないか?」と、疑問に思う方もいるでしょう。そこで今回は、この疑問を解消するためにも、IT投資に関する意思決定の際に欠かせないプロセスについてお話ししたいと思います。
「自分たちの現在地」を知る──As-Is分析の使いどころ
IT戦略の出発点となるのは、自社が「今どのような状況にあるのか」を「As-Is:現状認識」として正確に把握することです。しかし、多くの企業は自社のIT環境や業務の全体像を正確に把握していないのが実情。筆者はこれまでDXや新規事業のプロジェクトを多く手掛けてきましたが、プロジェクトの開始時点でやりたいことはある程度明確になっていても、「今どうなっているのか」に関する資料がまとまっていることは極めて稀です。
As-Isを正確に把握することの重要性は、受験勉強をイメージするとよく分かるでしょう。入学したい学校がある場合、まず自分が各学科や領域でどの程度の理解度があり、入学試験に合格するにはどのような勉強をしていく必要があるのかを明確にすることが欠かせません。As-Isが不明確な場合、いくら勉強をしても、それらが積み上がっていかないどころか、目的の大学が求めている基準に到達するために必要な努力とまったく異なる努力を積み重ねてしまう可能性すらあります。
これはIT投資でも同様です。やりたいことを実現するためには、既存のシステムが誰の何のために稼働しているのか、どの程度の費用がかかっているのか、どのような業務上の課題があるのか、それぞれがどのように導入されたのかを要件定義資料やプロジェクト計画資料などで把握したうえで、やりたいこと(To-Be)との差分を把握していくことが欠かせないのです。
しかし、As-Isを把握するには、その調査にも時間やコストがかかり、さらに多くの人は「自分たちは自社のことをよく理解している」と誤認しているケースも多いため、このプロセスを飛ばしてしまう企業も少なくありません。実際にAs-Isを把握するための調査を行ってみると、新規プロジェクトの企画書で前提とされている認識の部分に大きな抜けや漏れがあることがしばしばあります。特に、利用を開始してから20~30年が経っている、いわゆる「レガシーシステム」は長年にわたって増改築を繰り返した結果、全体像を把握している人が社内に誰もいない、という状態になっていることは珍しくありません。
では、正しいIT投資を行うためにはどうすべきか。まずは戦略立案を「経営課題」と捉え、As-Isを把握するための取り組みを行うことが最初の一歩となります。事業規模や業務の複雑さにもよりますが、一般的に専門家は数ヵ月から半年程度でAs-Isを把握できます。見当違いのプロジェクトを始めることで費やされる費用や期間を考えれば、専門家に頼るのも有効な策といえます。
実際の事例を見てみましょう。次の図1-13は、利益が逼迫し安定した収益構造が確立できていないシステム開発企業A社を例にとり、どのような構造的課題があるかを明確にしたものです。この図に落とし込むまでの中間成果物としては、各部署の担当者へのヒアリングシートや業務フロー図、システム連携図などが挙げられますが、特定の部署や業務のみの課題だけでなく、各部署で連携する際にどのような課題があるのかを明確にすることが、DXでは特に重要な観点なのです。
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橋本 将功(ハシモト マサヨシ)
パラダイスウェア株式会社 代表取締役
早稲田大学第一文学部卒業。文学修士(MA)。IT業界25年目、PM歴24年目、経営歴14年目、父親歴9年目。 Webサイト/Webツール/業務システム/アプリ/組織改革など、500件以上のプロジェクトのリードとサポートを実施。「プロジェクトマネジメントの民主化」の実現...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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