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「AI活用が活発な企業は、PQC対策も着実に進めている」タレス、耐量子暗号に対応した次世代HSM発表

 タレスDISジャパン(以下、タレス)は2026年8月27日、耐量子暗号(PQC:Post-Quantum Cryptography)に対応した次世代ハードウェアセキュリティモジュール(HSM)「Luna 8」に関する記者会見を開催。会見では、同社が出している最新調査レポート「2026年版データ脅威レポート:量子技術とAIの動向」の知見を交えながら、AIの急速な普及と量子コンピューティングの進展にともなうデジタルトラストの変革と、それに対する企業のセキュリティ基盤強化の重要性が提示された。

 会見冒頭に登壇した兼子晃氏は、同社の事業概要とグローバル市場における立ち位置について解説。タレスはフランス・パリに本社を置くグローバル企業であり、防衛、航空・宇宙、サイバー&デジタルをコア事業セグメントとして展開している。世界68ヵ国に83,000人以上の社員を擁し、2025年度の売上高は221億ユーロ(約4兆円)に達する。

タレスDISジャパン株式会社 サイバーセキュリティプロダクト事業本部長 兼子晃氏

 サイバーセキュリティ分野においては、データ暗号化、HSM、AIセキュリティ、PQC、データセキュリティポスチャマネジメント(DSPM)、アイデンティティ&アクセス管理(IAM)、アプリケーションセキュリティ、生体認証、SIMカードやクレジットカード向けチップまで、包括的なソリューションを提供。兼子氏はセキュリティ市場の動向を、「AIと量子技術という2つの巨大なトレンドが相まって、企業が構築してきたデジタルトラストの基盤に大きな変革と圧力が迫っている」と分析する。

 同社が出した「2026年版データ脅威レポート:量子技術とAIの動向」は、S&P Globalの451 Researchが日本を含む世界20ヵ国・3,120人以上のITおよびセキュリティ管理職を対象に実施した調査に基づく。同レポートによると、調査対象となったグローバル企業の98%が「AIと量子技術が互いに与える影響を考慮・検討している」と回答した。

 また、AI導入は企業データへのアクセス、再利用、外部への露出を加速させている。AIに関する主な懸念事項として、65%が「データ品質やガバナンスの不足がAI導入の阻害要因になっている」「露出したデータに起因するセキュリティリスク」と回答。さらに、51%が「適切なセキュリティ対策が追いつかないほど急速にAI導入が進んでいる」と回答しており、AIは新たなセキュリティ問題を生み出したというよりも、企業が従来抱えていた管理上のギャップや潜在的な脆弱性を一気に顕在化させている実態が浮き彫りになった。

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 一方で、量子コンピューティングの進展は、既存の公開鍵暗号基盤(RSAやECCなど)に対する脅威を急激に高めている。特に深刻な懸念となっているのが、攻撃者が現時点で暗号化されたデータを事前に収集・保存しておき、将来的に実用的な量子コンピュータが実現した段階で一括復号を試みる「HNDL(Harvest Now, Decrypt Later:今収集し、後で解読)」攻撃だ。調査結果では、61%の組織がHNDL攻撃を量子セキュリティにおける最大の懸念事項として認識している。また、57%が「将来の暗号化侵害に対する耐量子暗号への移行計画」を挙げ、51%が「鍵配布と暗号アジリティの確立」を懸念として挙げた。

 「今回のレポートで最も注目すべき点は、AI活用をリードしている企業ほど、PQCへの準備も着実に進めていることです。先進企業は、AIと量子コンピューティングを別々の技術課題として捉えるのではなく、データの可視性、ガバナンス、暗号基盤という共通基盤への投資を競争力の源泉と位置付けています。量子コンピュータの実用化時期についてはさまざまな見方がありますが、HNDL攻撃は既に現実的なリスクとして存在します。市場はもはや『量子コンピュータがいつ実現するか』を議論する段階ではなく、『その日に備えて今何を準備するか』を問う段階へ移行しているのです。

 AIに関して、攻撃環境が変化してから対策しはじめるのでは不十分であるのと同様に、PQCも実用化されてから移行を開始したのでは手遅れとなる。暗号基盤の刷新には、数年単位の計画と実行が必要です。今すぐ取り組むべきは、自社で利用されている暗号資産を棚卸しし、重要データがどこに存在するのかを把握することです」(兼子氏)

 次に登壇した舟木康浩氏は、耐量子セキュリティにおける安全な信頼基盤として発表された、次世代タレスHSMプラットフォーム「Luna 8」について説明。HSMは、暗号鍵の生成、保管、管理、および暗号処理を専用の耐タンパ性ハードウェア内部で安全に行う装置だ。金融取引、電子署名、パスポート発行、クラウド認証など、社会インフラを支えるすべてのデジタルサービスは公開鍵と暗号鍵に依存しており、HSMはその根幹をなす「信頼の基点」として機能する。

タレスDISジャパン株式会社 シニアセールスエンジニアリングマネージャ 舟木康浩氏

 「公開鍵システムの信頼性は鍵の安全性に依存しており、その鍵を守る信頼の基点そのものが進化しなければ、デジタルサービス全体の安全性を維持することはできない」と舟木氏。同社の汎用HSM「Luna」シリーズは、1994年の初代「Luna HSM(G1)」から始まり、「Luna SA 4」「Luna SA 5/6」「Luna 7」などが提供されている。今回発表された「Luna 8」は、「Luna」と決済業界向けHSM「payShield 11K」を統合する新たな共通タレスHSMプラットフォーム上で提供される初の次世代ハードウェア製品だ。

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 「Luna 8」における技術的特徴の1つは、タレスが自社で独自に設計・エンジニアリングを行った「タレス暗号プロセッサ」を搭載している点だ。IPおよび半導体チップの設計を社内で完全保有することにより、サードパーティに依存しないサプライチェーンセキュリティと技術ロードマップの自律的な制御を実現した。このプロセッサは、マルチテナントアーキテクチャに最適化されており、1台のHSM内部に220個の独立した暗号エンジンを配置している。これによって、仮想化技術を用いたコンテナ分離が可能となり、各テナントに対して予測可能なパフォーマンスを保証しつつ、他のテナントからの相互干渉を遮断する隔離構造を達成した。

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 性能面においては、多くの耐量子暗号処理に最適化された設計となっており、従来の業界基準を塗り替える処理能力を誇る。NIST(米国国立標準技術研究所)が策定したPQC標準アルゴリズムであるデジタル署名方式「ML-DSA-65」において、1秒あたり16,000取引(tps:transactions per second)を達成し、最も近い競合製品と比較して8倍の処理速度を実現した。

 また、鍵カプセル化メカニズムである「ML-KEM-768」では36,000tpsで競合比3倍、従来の公開鍵暗号である「RSA-2048」では150,000tpsで競合比4.6倍、「ECDSA P-256」では150,000tpsで競合比6倍というベンチマーク結果を示している。さらに最高レベルのセキュリティ保証を満たすため、米国NISTの基準である「FIPS 140-3 レベル3」や、欧州の標準評価基準「EU Common Criteria」などの厳格な国際セキュリティ認証への適合に向け、独立評価機関によるプロセスが進められているとのことだ。

 最後に兼子氏は、組織が耐量子暗号へ円滑に移行するための実践的なアプローチとして「最初の90日間」のロードマップを提示した。最初の0~30日目は、優先システムと信頼の基点を対象に暗号資産の棚卸しを実施し、10年以上にわたり機密性を維持すべき重要データとデータフローを特定して、セキュリティ、PKI、インフラ、コンプライアンスの各部門間で足並みを揃えることが推奨される。

 30〜60日目は、ハイブリッド環境下でテスト環境を構築し、PKI、アプリケーション、クラウド、パートナーシステムとの相互運用性や処理性能要件を検証する。60〜90日目は、優先度の高い信頼の基点と転送中データを保護する初期移行フェーズを定義し、段階的な導入計画を策定する。この段階的な移行を支える核心概念が「クリプトアジリティ(暗号の俊敏性)」であり、アルゴリズムの更新や新たなセキュリティ脅威に対してシステムを休止させることなく柔軟に対応できるアーキテクチャの確立が不可欠だ。

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奥谷 笑子(編集部)(オクヤ エコ)

株式会社翔泳社 EnterpriseZine編集部

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