「レガシーは戦犯じゃない」小野和俊×磯村康典によるCxO対談 正反対の2人が語る、AI時代のIT論
「IT Strategy Summit 2026」レポート
ヨーク・ホールディングス CIO 磯村康典氏とクレディセゾン CDO/CTO 小野和俊氏。2026年7月に開催された「IT Strategy Summit 2026」で、AI時代におけるIT戦略をテーマに語り合った。要件定義の変化、AIエージェントが“使う”前提でのAPI/MCP対応、そして「レガシーを否定しない」という姿勢。アプローチは真逆でも、重なる2人の意見。若手育成にまで話が及んだ、白熱の対談をお届けする。
AIが変えた要件定義 IT部門・開発部門の役割にも変化
小野和俊氏(以下、小野):私は、もともとプログラマーです。小学生の頃から家にPC-8801があったため、見よう見まねでプログラミングを始めました。読み書き、そろばん、そこにコーディングが加わったような感覚で育った人間ですね。サン・マイクロシステムズの日本法人、そして米国本社で働いた後、24歳で起業してデータ連携製品「DataSpider」を作りました。その会社(アプレッソ)をセゾン情報システムズ(現・セゾンテクノロジー)にM&Aでイグジットし、同社のCTOを経て、2019年にクレディセゾンへ。事業会社なので開発はすべて外部に頼っていたところを、ゼロから内製組織を立ち上げ、今では200人規模のエンジニアチームになりました。
クレジットカードの基幹系に近い、"技術負債の総合百貨店"のようなレガシーを腕力で巻きとって内製化する、といったこともやっています。ポリシーは、「これまでのやり方を否定しない」こと。事情があって今こうなっているんだよね、と受け止めながら、爽やかに変えていくスタンスです。
磯村康典氏(以下、磯村):私は、2026年7月1日付でヨーク・ホールディングスへ移りました。グループ企業にはイトーヨーカ堂、ヨークベニマル、デニーズ、赤ちゃん本舗、ロフトなどがあります。同年6月まではトリドールホールディングスでCIOを務め、DXの観点からメディアなどに取り上げていただくこともありました。ただ、小野さんとはアプローチが真逆で「システムをつくらない」というスタンスです。そのため、業務システムをすべてSaaSだけで組み上げ、約6年かけて完成させました。爽やかな変革というより、「ブルドーザーみたいにガーッといく」と言われるタイプですね(笑)。
小野:当社のAI戦略「CSAX(Credit Saison AI Transformation)」がユニークなのは、200人の内製組織だけでなく、3,600人ほどいる社員にスポットライトを当てている点です。全社を挙げてAIによる変革を進めてきた結果、要件定義がガラッと変わりました。以前は、ユーザー部門が「こんな新機能がほしい」と相談ベースでもってきて、そこから役割分担して進めていました。ところが今は、全員がChatGPT Enterpriseを当たり前に使うため、事前にAIと考えた上で画面のモックまでつくってきます。「ここを押すとグレーアウトして……」というインタラクションまで作り込まれており、このモックがある前提で「裏側のシステムとどうつなぐか」を議論するなど、要件定義におけるスコープや役割分担が一変しました。
磯村:素敵ですね。さきほどの通り、私は「なるべくつくらない」というスタンスです。小売も飲食も、お客様が求めているものは商品や食事、接客であって、デジタルはあくまでサポート基盤。だからこそ、大半のシステムは共通化できると考えて、SaaSを用いてフィット・トゥ・スタンダードで構築してきました。その上で、AI時代に突入した今、IT部門は「人事部門」になると思っています。AIエージェントが人の代わりに働いてくれるのであれば、システムの要件定義は“AIエージェントのジョブディスクリプション”そのものです。前職では、CHROやCEOと「これは人間に、これはAIエージェントにやってもらう」と決めていました。人材採用の段階から「(採用するのでなく)その仕事はAIエージェントをつくろう」という流れをつくること、それを現職にも持ち込んでいます。
小野:何を人が担いどこまでをAIに任せるべきか、開発の仕事も劇的に変わっています。一方、アーキテクトの仕事はあまり変わりません。システム全体を貫く、“背骨”を設計する仕事は残るからです。もちろん、仕様書があればコードに起こすだけ、といった仕事は急速にAIに置き換わっています。もう一つ、価値が高まっているのは、現場に触れている人。現場でしかわからない感覚などをシステムやデータとして、どのように組み込むか判断できる人です。「言われた通りコードを書くだけ」に役割を振り切ってしまうと、将来的には厳しいと思いますね。
磯村:私も若い頃はコードを書いていましたが、アーキテクトは絶対に必要ですね。SaaSでシステムを構築する場合でも、全体のアーキテクチャをどのようにコーディネートすべきか考えないといけない。そこが一番重要な仕事だと思います。
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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