SCS評価制度を「★取得」で終わらせないために──現場負荷の軽減、企業価値の向上にまでつなげられるか
第1回:SCS評価制度の価値と経営者が考えるべき論点
A社の経営会議からアプローチを考える どのような経営課題に直面するのだろうか
とある製造業A社の経営会議では、「サプライチェーンリスクへの対応強化とSCS評価制度への対応方針」が議題となっている。
CIO(最高情報責任者):主要顧客からは、SCS評価制度への対応状況を求められる可能性が高まっています。
営業部門の担当者:とはいえ、顧客ごとに異なるセキュリティ調査に対応せねばならず、そのための業務負荷も増しているのが現状です。
CIO:SCS評価制度への対応を進めることで、管理策の見直しや規程整備が進むでしょう。そうすれば、セキュリティ管理の標準化にもつながります。
社長は、前向きな表情で話を聞いていた。SCS評価制度を受けることで対外的な説明がしやすくなり、一定のセキュリティ管理水準も確保できるからだ。ここまでは制度対応のメリットとして理解しやすい内容だろう。しかし、その場でCISOが口を開くと、会議室の空気が少し変わった。
CISO(最高情報セキュリティ責任者):SCS評価制度を受けること自体が目的化すれば、制度対応が形骸化する可能性があるでしょう。もちろん、評価を受けることには意味があります。評価対応を通じて不足していた対策を見直し、規程や手順を整備し、運用を標準化できれば、一定水準のセキュリティ管理を実現しやすくなるでしょう。
しかし、評価制度が示してくれるのは、自社のセキュリティリスクの状況を把握するための「共通のものさし」です。どのリスクを優先して低減すべきか、どこへ投資したらよいのか、どのように事業を守るべきか……これらを示してくれません。つまり、「評価結果をどのように活用するか」という経営判断がなければ、制度対応は企業価値の向上につながらない可能性があります。
「評価結果を踏まえて何をするのかが重要だということだな」──社長は、腕を組みながら考え込んだ。では、経営者は何を考えなければならないのだろうか。
経営者が考えるべき3つの論点
ここで、SCS評価制度を企業価値向上につなげるための3つの論点について、具体的に考えてみよう。
1. 優先的に対応すべきリスクを決める
SCS評価基準は、共通のものさしである。しかし、自社の事業構造や供給責任までは示してくれない。
どの工場が停止すると事業へ大きな影響が出るのか、どのシステムが重要なのか、どの委託先が停止するとサプライチェーンが寸断されるのか……こうした優先順位は、企業の事業特性によって異なるからだ。
そのため経営層は、自社にとって影響の大きいリスクを見極め、限られた経営資源をどこへ重点的に投入するのかを判断しなければならない。
2. 事業継続力の実効性を高める
規程や手順が整備されていることと、実際に事業を継続できることは同じではない。
たとえば、「インシデント発生時に経営層は迅速に意思決定できるのか」「重要業務を目標時間内に復旧できるのか」「代替運用は本当に機能するのか」といった“実効性”は、訓練や演習を通じて初めて確認できるものである。評価を受けただけで、自社の事業継続力が保証されるわけではない。
3. 評価結果を経営資産として活用する
評価結果は、単なる評価実績ではない。企業が自社のセキュリティリスクの状況を客観的に把握するための材料であり、経営判断を支える重要な情報でもある。
近年、サイバーリスクはIT部門だけの課題ではなく、事業継続や企業価値に直結する経営課題として認識されるようになってきた。そのため経営層には、自社のセキュリティリスクの状況を継続的に把握し、どのような対応を優先するべきかを判断することが求められる。
そしてSCS評価制度は、そのための客観的なベースラインとして活用可能だ。自社として最低限確保すべきセキュリティ水準を可視化し、継続的な改善につなげるための共通指標として利用できる。
また、評価結果は投資判断にも活用できる。すべてのリスクに対し、同一水準の投資を行うことは現実的ではない。どのリスクが事業へ大きな影響を与え、どの対策が最も効果的なのかを見極めながら投資しなければならない。
さらに、顧客や株主、金融機関、取引先などのステークホルダーに対し、自社がどのようにセキュリティリスクを管理しているのかを説明する、客観的な根拠としても活用できる。
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酒井 慎(サカイ シン)
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リスク・コンサルティング アソシエートパートナー金融機関向け決済ネットワークの企画・開発業務を経験後、IT戦略、ITガバナンス、サイバーセキュリティ領域を中心としたコンサルティングに従事。FinTech分野におけるリスク管理や業界標準策定にも携わる...
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多田 優里(タダ ユリ)
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リスク・コンサルティング シニアマネージャーSIerにてグループウェアをはじめとするインフラ・アプリケーションの設計、開発、運用保守およびプロジェクトマネジメントに約15年従事。その後、クラウドおよびセキュリティコンサルタントとして、クラウド戦略策...
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