「AIとの協働」を前提に人材戦略を再定義せよ──SOMPOホールディングス・日立製作所の施策から学ぶ
第3回:労基法改正が施行された先のIT人材戦略 労働時間以外の数値を測るIT基盤が必要に
現在の雇用政策の情報を総合すると、2028年4月頃、労働基準法(以下、労基法)大改正の施行がありうると考えられます。前回までに、この改正が働き方を大きく変えるものであること、そしてIT基盤の刷新に向けた予算計画を今立てるべきだと述べました。最終回となる今回は、AIとの協働が進んだ先の未来に目を向けます。AIと人の協働が現実的になると、今の労務管理が前提にしている事柄が順に変わっていきます。どこが変わり、改正がそこにどう対応しているのか。先行して開示を進めている企業事例とあわせて、投資に織り込むべき事項を整理します。
労基法大改正の性質と、施行の先にある「AI協働」
本連載では、2027年以降を目指して進められている労基法の改正についてお伝えしています。第1回では改正の本質的な理解と棚卸しの必要性を、第2回では投資計画の考え方と時期を述べました。
労基法改正の全体像を簡単に整理すると、今回の改正は2023年からの2つの研究会での検討を経て、2025年1月に「労働基準関係法制研究会報告書」としてまとめられた内容が各論の土台になっています。その後の政策の検討を見ても、これが各論の大枠となるでしょう。
制度を緩める側には、就業規則や労使協定を結ぶ単位について、事業場ごとという原則を保ちつつ、労使の合意によって企業単位・複数事業場単位でも選べるようにする案、テレワーク日に限ったフレックスタイム制の柔軟化などが挙がっています。規律を強める側には、13日を超える連続勤務の禁止、原則11時間の勤務間インターバル、報告書で目玉とされる労使コミュニケーションの改善などがあります。
なお、裁量労働制の対象拡大は報告書の内容ではなく、施政方針演説と審議会での検討から出てきた論点です。制度の詳細については、第1・2回でも紹介したHRzineの記事※で詳述しています。
時期は、2026年7月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針2026)」に、夏以降の労働政策審議会で議論を行うことが明記されました。ここから普通に考えれば、2027年の通常国会への法案提出が有力だと予測でき、そこから施行までの期間を置くと、2028年4月頃の施行がありうると筆者は考えています。
そのうえで今回は、施行のさらに先を見ます。改正が対応しようとしている変化は、2028年で終わりません。中心にあるのがAIとの協働です。これが進むと、今の労務管理における前提が変化していきます。まず2040年に向けた人材構造の見通しを確認し、そのうえでどこが変わるのか、改正がそこにどう対応しているのか、先行企業がどう対応しているのかを見ていきます。
2040年に向けた人材構造の見通しと、AI協働の想定
まず、政策文書が描いている将来像を確認しましょう。経済産業省の試算では、2040年に約1100万人分の労働力不足が、AIと人の協働によって解消されるだろうと言われています。人手不足がほぼ解消されるということは、働き方がまったく変わるということでもあります。そして問題の形は、人数の不足から職種間のミスマッチへ移ると想定されます。
たとえば介護、建設、物流といった現場の仕事も、AIやロボットの活用と技能育成の支援によって、仕事の中身そのものが高度化されていくでしょう。つまり、同じ職種の中で求められる技能が変わることを意味します。労働移動の軸足も、企業の中での職種間の移動と育成に置かれており、AI人材の職務や能力の定義を公的に整備する方向も示されています。
ここで想定されているAI協働は、単に一部の職種にAIを導入するというものではありません。人が担う部分とAIに委ねる部分の切り分けが職場ごとに進み、同じ職種の中でも仕事の中身が変わっていく。そのうえで人が担う部分の付加価値をどう上げるかが、事業の成果に直結するようになります。
ここから想定されるのは、一人ひとりの働き方が職種・技能・時間帯・場所の組み合わせで細かく分かれていく状態です。前回挙げた2つの業務群(シフトの設計・調整が必要な業務/働いた時間と成果が比例しにくい業務)も、それぞれの内側でさらに分かれていきます。
さらに、この変化は日々の労務管理の前提にも及びます。では、そこで何が変わるのかを見ていきましょう。
※「労働基準法大改正 解説【前編】——2027年改正が示す『働き方』の転換と人的資本経営の進化」(HRzine、2025年11月27日)
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- この記事の著者
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松井 勇策(マツイ ユウサク)
産学連携シンクタンク iU組織研究機構 代表理事・社労士。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授(人的資本経営・雇用政策)。社労士・公認心理師・AIジェネラリスト。
時代に応じた先進的な雇用環境整備について、雇用関係の制度や実務知識、特に国内法や制度への知見を基本として、人的資本経営の推進・AIやICT関係の...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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