2026年も既に後半戦、年初はAIを「本番活用する」というテーマがトレンドの中心であったが、「直近ではAIを使うことはもはや前提として、『いかにガバナンスを効かせるか』へ軸がシフトしている」と、Cloudflare Japan(クラウドフレア)代表の松本紗代子氏は語る。
Q2(4月~6月)を好調な業績で終えたCloudflare Japan。前年同期比で、年間契約額は120%成長、クローズ案件数は約2倍、新規顧客からの契約額は95%成長(案件数は105%増)、パートナー経由の契約額は257%成長(案件数は121%増)、そして統合SASEプラットフォームである「Cloudflare One」のブッキング額は378%成長と、いずれも大幅な伸びを見せている。
新規パートナー契約も、今期に入って新たに30社と契約を結んだ。日立ソリューションズ(HISOL)や伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)、GMOサイバーセキュリティ byイエラエ、ネットワンシステムズなど、エンタープライズに強固な顧客基盤を持つパートナーが名を連ねる。
そんな同社が今年に入って訴えているのが、従来の人間向けインターネット(Human Internet)からエージェント向けインターネット(Agentic Internet)へのシフト、それに伴うインターネットとインフラの再設計だ。

24時間365日無停止のAIエージェントが、打算的にならず膨大な検索やコード記述を行い、大量のデータ処理やタスクの並列実行をこなす時代に突入した。同社 フィールドCTOの乙部幸一朗氏によれば、クラウドフレアが観測するWeb通信のうち、HTMLコンテンツへのアクセスの約6割は既にボットが占めているという。加えて、AIエージェントによる通信量は、2025年6月~2026年5月末の1年間で1,700%(17倍)以上増加した。
コード生成と開発がスピード・量ともに急増していることは、もはや言うまでもないだろう。さらには、攻撃コードの生成が自動化されつつあることで、サイバー攻撃の大規模化と高速化も進んでおり、従来なら脆弱性発見から実際の悪用まで数日~数ヵ月を要した攻撃も、今や24時間~48時間以内で完遂できてしまう。
人々の行動様式も変わった。人間はオープンWebから「SNS+AIアプリ」へと移動し、若年層を中心に、日常のあらゆる場面で何でも気軽にAIに相談するようになった。加えて、メディアサイトへの人間からのトラフィックは過去2年間で平均40~60%減少し、深刻なサイトでは80%以上減少している光景も見られる。この減少傾向は、小売や金融、ITのサービスでも観測されているという。この変化により、広告バナーや人気順表示などといった従来の検索モデルは機能しなくなりつつある。AIエージェントは、広告を見たりクリックをしたりといった挙動はしないからだ。
そこで、人間とAI双方が共存して利用できるインフラが必要となる。クラウドフレアは、このAgentic Internetのために設計された唯一のクラウドであると、乙部氏は力説する。同氏は、Agentic時代のインフラに顕在化する課題と、それに対するクラウドフレアの解決策を提示した。

AIエージェントが稼働しやすいインフラ環境とは?
まず、CPUリソースが圧倒的に不足する懸念が出ている。世界に約10億人存在する知識労働者が1人1台のAIエージェントを所有し、1人1個のCPUを必要とする場合、必要なCPU数は10億個。しかし、現在のサーバーCPUの年間生産量は3,000万~4,000万個だ。このままでは、単純計算で調達に20年かかる。
また、コンテナのような特定のアプリ運用に向けた環境は、タスクごとにコードを生成・検証・削除するAIエージェントの動きには不向きである。

この問題に対し、同社はサーバーレス実行環境「Cloudflare Workers」の基盤技術にV8 Isolateという軽量な仮想化技術を活用することで応える。OSを起動する必要なく、プロセス内の独立した環境内でコードを実行するため、起動が非常に速く、スケールアップ/スケールダウンも簡単、「まるでChromeのタブを開くような感覚で圧倒的なスケーラビリティと柔軟性を実現できる」と乙部氏は語る。

続いて、AI基盤そのものと、生成されたコードを実行するサンドボックス環境を分離しながら連携させる構成が標準化しつつあることも、昨今のトレンドである。この動きに対し、同社はAIエージェント専用の軽量Webブラウザ「Cloudflare Kitesurf」を発表した。まさに、AIエージェントがWebページを読み込んで操作したり、テキストデータやスクリーンショットを取得したりすることに特化したブラウザだ。また、Isolateとコンテナ双方からアクセス可能なAIエージェント向けのオープンソースライブラリ・実行環境である「@cloudflare/computer」も、8月に発表されたばかりだ。ファイル編集やコマンド実行を単一の作業環境で行える。

AIエージェントに“UI”は必要ない、アクセスされるコンテンツの要件が変わる
人間以上にAIエージェントがインターネット空間を漂うようになることで、アクセスされるコンテンツの要件も変わってきている。

- 認証:画面ログインやCookieなどから、暗号署名や委任アイデンティティへ
- 読み取り:人間の視覚を意識したUIの価値は下がっていく。HTML/CSSなどはノイズとなり、AIエージェントが構造化データとして参照しやすいMarkdown形式へと置き換えられていく
- 発見:SEOからAEOへ、自社サイトがAIからどう見えているのか
- 呼び出し:フォーム入力や主導UI操作から、MCPやAPIへ
- 決済:クレジットカードや手動決済から、HTTP 402などを利用した即時マイクロペイメント、エージェント用ウォレット機能、コンテンツ制作者が退化を得るMonetization Gatewayなどへ
クラウドフレアは、読み取り、発見、呼び出し、決済をAIエージェントネイティブにする機能群を、既に提供・発表している。

ボット管理やセキュリティにおいても、悪性ボットを排除しながら良性ボットのみを通すことが可能な「Cloudflare Bot Management」や、AIクローラーに特化した「AI Crawl Control」、さらには従業員やAIエージェントごとにAI利用状況を可視化・管理するAIガバナンス製品「Identity-Aware AI Gateway」などを提供・発表済みだ。これらも、すべて単一プラットフォーム・単一コンソール上に実装されている。

なかでも乙部氏が強調して紹介したのが、7月に本国で発表された「Precursor」である。これは、AIエージェントやボットを人間と見分けるための新しい行動検証エンジンだ。人間のように振舞おうとするAIやボットを、マウスの軌跡やキーボードの入力リズムなどといった、AIが真似しにくい挙動を継続的にモニタリングすることで見分ける仕組みだという。入力された機密情報やテキストは取得せず、動きの情報のみで判定が可能とのことだ。また、人間がパズルを解いたり、特定のクリック動作を行ったりといった面倒な行動をする必要はなく、バックグラウンドですべての識別が行われるとしている。

最後には、Agentic Internetへの対応に向けたOpenAIやAnthropicとのパートナーシップの現況が共有され、クラウドフレアがこの分野でプレゼンスを発揮していく存在である点が強調された。
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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティとAI(人工知能)関連を中心に、ソフトウェア/ハードウェアを問わず国内・海外の最新技術やルールメイキング動向を取材。そのほか、DX推進、企業財務・IRなどのコーポレート領域でも情報を発信。武蔵大学 経済学部 経済学科 卒業。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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