ウイングアーク1stは2026年10月20日、企業のAI活用を前提に設計した新たなデータ活用基盤ソリューション「DataTetra(データテトラ)」を発表した。翌10月21日より順次提供を開始する。新開発のレイクハウス環境「DataTetra DB」と、同社の主力製品であるデータマート「Dr.Sum」、BIツール「MotionBoard」、AIエージェント「dejiren AI」などを統合し、データの統合・管理から意味付け、AI分析、業務活用までを一体的に支援する国産初のAIネイティブなデータ活用基盤だ。
開発の背景にあるのは、企業内のデータ生成量、とりわけ文書や音声、画像など現場起点の非構造化データの爆発的な増大だ。生成AIの普及により非構造化データの処理や自然言語でのデータ抽出が可能になった一方、実運用においては「3つの壁」が顕在化している。
同社取締役執行役員CTOの島澤甲氏は、1つ目の壁として「コンテキスト腐敗(Context Rot)」を挙げる。人間は経験を積むほど生産性が向上するが、トランスフォーマー型のAIモデルは蓄積・入力するデータが増えるほど応答精度が劣化する特性を持つ。そのため、長期運用時には劣化を抑えるための人間による監視工数が増大してしまう。2つ目は外部AIサービスの障害やモデル側の都合による応答品質の変動といった「安定性」の壁だ。
そして最大の壁が「コストの発散」である。非構造化データの構造化処理やデータの入出力(I/O)のすべてにAIを介在させ、さらに従量課金型の外資系クラウドDWHなどを組み合わせると、日常業務でAIを使うほど処理コストが青天井に膨れ上がる。島澤氏は「自社のデータやノウハウを引き出すたびに外部クラウドへ高額な手数料を払い続ける構造は、日本のデータ活用が植民地化しているようなもの。本来なら設備投資や研究開発に回せるはずの資金が海外へ流出してしまう」と警鐘を鳴らす。さらに、地政学リスクや規制強化による突然のサービス停止や大幅値上げなど、特定ベンダーへの過度な依存は経営リスクにも直結する。
こうした課題を解決するため、DataTetraは「AIとの共生」「データ主権(ユーザー主権)」「データ活用基盤」の3つを設計思想に掲げる。
コスト抑制の核となるのが、同社が開発した「AI Reinforce」と呼ぶAIロジック再利用技術だ。すべてを毎回AIで処理するのではなく、たとえば未知の取引先の請求書を取り込む際、初回のみAIを使って解析ロジックを生成し、2回目以降は生成済みのロジック(プログラム)を再利用して処理する。これにより、運用時のAI推論コストを発生させずにデータ量をスケールさせることが可能となる。将来的なオンプレミス対応も視野に入れており、企業が自らコストとデータを完全にコントロールできる環境を提供する。
アーキテクチャ面では、システムデータ(ERPや既存DWH)とドメインデータ(SaaSや非構造化データ)を統合するレイクハウスと、高速集計を担うデータマートを組み合わせ、他社DWHも含めたデータの仮想統合やパイプライン構築に対応する。さらに、AIのハルシネーションを防ぎ企業固有の文脈を理解させるため、データの業務上の意味、オーナー(責任者)、鮮度・品質、機密ルール、データの出所を示すデータリネージなどを「データプロダクト」として定義・管理するセマンティック機能を搭載した。この仕様には、オープン標準規格である「Apache Ossie」を国内企業として初めて採用し、ベンダーロックインを排した高い移行性と相互運用性を担保している。また、IT部門による全体統制と、業務部門が自然言語で操作する画面(LUI)で自律的にデータ検索やパイプライン構築を行える「フェデレーテッドガバナンス」を両立させた。
執行役員CMO事業戦略本部長の久我温紀氏およびサービス本部本部長の山本宏樹氏は、DataTetraが単なるソフトウェア製品ではなく、累計1,300社以上の支援実績を持つ専門チームによる企画・構築から定着までの伴走型ソリューション・サービスを内包した統合モデルであることを強調した。
料金体系は、利用量に応じた従量課金ではなく、処理能力などの利用枠に基づく予見可能な「キャパシティ課金体系」を採用し、最小構成で月額100万円から提供する。同社は既存の1万2,000社超の顧客基盤や、外資系DWHと共存する現場部門(EUC)への展開を軸に、今後3年間で30億円のビジネス規模を目指す。
記者説明会の後半では、ウイングアーク1stの製品群(Dr.Sum、MotionBoard、dejiren AI)を活用し、製造現場の熟練者の暗黙知継承と業務効率化を実現した先進事例として、ヤンマー建機が登壇した。同社経営戦略部イノベーション推進部部長の田中重信氏と、同部DX推進グループの下川和人氏が、「職人×AI」をテーマにした日次生産順序計画の効率化プロジェクトについて解説した。
建設機械を製造するヤンマー建機では、0.5トンから10トンまで約20倍のサイズ差がある数千種類の機種を、わずか2つの組立ラインで混流生産している。ラインの生産効率を維持するには、日次で投入する約50〜100台の複雑な生産順序を緻密に組む必要がある。しかし従来は、現場を知り尽くしたわずか2名のベテラン担当者(職人)に業務が完全に属人化しており、毎日3〜4時間をかけてExcel上で勘と経験による行の並び替え作業を行っていた。判断条件が極めて複雑なため手順書化も難航し、日々の作業に追われて後進を育成する時間も確保できないという深刻な課題を抱えていた。
この課題に対し、同社は生成AIとデータ基盤を組み合わせた業務改革に着手した。プロジェクトの最大のポイントは「最初からAIによる100点満点の全自動化を狙わない」ことだ。田中氏は「製造現場の高齢化や人手不足が進む中、100点を狙うのは難しい。まずは作業時間が半分になればゼロよりはるかに良いという割り切りでスタートした」と語る。
具体的な構築プロセスは、「事前準備」「AIエージェントによる自動並び替え提案」「職人による手仕上げとフィードバック」の3ステップで構成される。
第1の事前準備では、職人に粘り強くヒアリングを行い、生産順序の並び替えルールや制約条件を言語化して引き出した。下川氏は「職人の方は口下手なことも多く、最初から完璧なルールは出てこない。まずは言葉にできる範囲で10個程度のルールを書き出してもらい、それをRAGやAIプロンプトに組み込むところから始めた」と振り返る。
第2のステップでは、AIエージェント「dejiren AI」を活用し、職人が組完予定日を指定してボタンを押すだけで、データベース(Dr.Sum)から対象機種のリストを取得し、生成AIがルールに従って最適化した生産順序案を自動生成する仕組みを構築した。約2〜3分で並び替えが完了し、AIが判断した根拠や懸念事項をまとめたHTMLレポートとともに、結果データがデータベースへ出力され、BIツール「MotionBoard」の画面へ自動連携される。
第3のステップが、職人による最終確認と手仕上げだ。AIが提案した7割程度の完成度の順序案に対し、職人がMotionBoard上でチェックと微調整を行う。従来のExcel作業での手間やミスをなくすため、判断に必要な機種仕様を自動で色分け表示し、ドラッグ&ドロップで直感的に行の並び替えができる専用ボードを開発した。
さらに最も重要な仕掛けとして、職人が手直しした際に気づいた「生成AIの間違いや改善点」(例:「同じ型式の機種が固まっているのでバラして配置すべき」など)をボード上のコメント欄に直接入力し、データベースに蓄積する仕組みを取り入れた。田中氏は「職人はゼロからルールを言語化するのは苦手だが、AIが出した結果に対して『ここがおかしい』と指摘することはできる。その指摘コメントを言語化データとして蓄積し、プロンプトやRAGへフィードバックしてAIを賢くしていくサイクルを『職人 in the Loop』と名付けた」と説明する。
2025年10月からの実運用により、毎日3〜4時間かかっていた日次計画の作成時間は1.5〜2時間へと約50%削減された。急な生産変更にも迅速に対応できるようになったほか、創出した時間を人材育成や他の重要業務に充てられるようになり、言語化されたルールは業務標準化と技術継承の基盤となった。現在はより複雑な月次生産計画への展開も進めている。
外資系ツールではなくウイングアーク1st製品を選定した理由について、田中氏は「当社はITの専門家ではない現場主導の『市民開発』からDXをスタートした。ドラッグ&ドロップで扱える操作性の高さに加え、日本の現場に寄り添ったサポートの圧倒的なレスポンスの早さが決め手になった」と評価。今後、グローバル拠点や買収企業を含めたグループ全体のデータ統合に向けて、新たに発表された「DataTetra」の活用への期待を示した。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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