大企業でAIエージェントを全社展開するためには、まず「ランタイムとは何か」を知るべきである
【Red Hat・HashiCorp・NVIDIA】鼎談:IBM TechXchange 2026
工学の世界から発想を得た「シリコンレベル」の分離によるインフラ監視
ハンター氏:NVIDIA Open Agent Safety Platformには、ハードウェア側の保護層もありますよね。
ホワイト氏(NVIDIA):「NVIDIA Sentry」ですね。エージェントが行うあらゆるアクションを可視化するために提唱しました。
NVIDIA Sentry(セントリー)
NVIDIA Open Agent Safety Platformの中で、ハードウェア層の監視を担うシステム。OpenShellで適用したポリシーを、ハードウェア内でも強制する。不審なエージェントの振る舞いをミリ秒単位で隔離・遮断できる。エージェントのアクションや思考の連鎖、推論を監視し、ドリフトを検知して即座に介入する。
ホワイト氏(NVIDIA):NVIDIAのハードウェアを見てみましょう。現在、最新の統合型AIラックは「Vera Rubin」ですが、その中にはOpenShellのランタイムが動作する「Vera CPU」があります。それとは別にDPU(データ処理ユニット)と呼ばれるコンポーネントが存在し、これを利用して追加のセキュリティライブラリをレイヤー化して、Sentryとして位置づけることができます(※1)。
※1:NVIDIA Sentryは、AIエージェントが動作するメインCPUとは独立した、BlueField-4 DPU上で動作する。
ホワイト氏(NVIDIA):ここでは、あらゆるトラフィック、エージェントの呼出、アクセス、推論のために呼び出されるモデルなどを、シリコンレベルで分離されたSentryを通じてエンドポイント経由でルーティングできます。
これ自体は新しい概念ではなく、システム工学から着想を得たものです。原子力や自動車などといった安全性が極めて重要な分野には、セーフティ・アイランド(安全領域)が存在します。また、帯域外やネットワーク監視が長年にわたり確立された手法であるように、ネットワーク分野でも一般的なテーマです。つまりSentryは、「エージェントからは視えない帯域外でエージェントの振る舞いを監視する」というアイデアに、こうした概念を適用したものだといえます。異常やエージェントのドリフトなどが発生したら、即シャットダウンできるようになります。
Agent Identityは、既存のアイデンティティ管理基盤にリプレイスを迫るのでは?
ハンター氏:Agent Identity、サンドボックス、ハードウェアと広範な領域で話をお聞きしてきましたが、エンタープライズ(顧客)は、皆さん既存の環境をお持ちですよね。それも大規模かつ精緻に組み上げられた環境で、ハードウェアからソフトウェア、そしてセキュリティツールに至るまで、数多の製品が既に稼働していることと思います。
先ほど紹介されたAgent Identityのような製品が出たとして、「エージェントを安全に管理できるようになりますが、既存の環境をすべてリプレイスしなければなりません」と言われたら正直キツいでしょう。ロイさん、この点についてはいかがですか。
ロイ氏(HashiCorp):Agent Identityは、既存のIdPを置き換えるものではありません(※2)。そもそも、IBMの製品はすべて「既存スタックとの相互運用性」を重視した設計になっており、標準規格を活用して組み上げられています。
※2:Agent Identityは、ユーザーの環境に既に存在するOkta、Entra ID、Ping、IBM Verifyなどを補完し、OAuth 2.0 OBO(On-Behalf-Of)やOAuth 2.0 PAR(Rich Authorization Requests)といった標準プロトコルに基づいて動作する。
ロイ氏(HashiCorp):今や、ほとんどのエンタープライズにはIdPの基盤が導入されています。それを撤去して置き換えるのは、あまりに莫大なプロジェクトです。皆さん、アイデンティティ管理には、AI時代よりも以前から巨額の投資をしてきたわけですよね。それをIBMが壊すことはあり得ません。IBMのソリューションは、既存のIdPと並行して動作します。ヒューマンやマシンに対し適用しているアイデンティティ管理を生かしつつ、エージェントへと拡張するようなイメージです。基本的には、SCIMなどの標準を使用して、様々な場所で動作しているエージェント・レジストリ間でAgent Identityを同期させ、エージェントが環境全体で作業を行う際の追跡・監査可能性を確保します。
特に、監査可能性は極めて重要です。チェーン全体を通じて参照可能なIDを付与することで、ユーザーがエージェントと対話する際に「その操作者・指示者は誰か」を記録として保持します。エージェントがIdPに承認を要求する際にも、その意図を引き継ぎます。エージェントがVaultから実際に資格情報を取得した際にはその記録が残り、「何に、いつ、なぜアクセスしたか」を確認できます。
そして、それをSIEMなどのセキュリティツールにフィードします。さらに、エージェントの振る舞いを監視・最適化して分析を行うツールが存在する場合には、Shared Signals Framework(共有シグナルフレームワーク)を使用して、それをAgent Identityにフィードバックできるのです。異常な振る舞いが検知された場合は、IdPに働きかけてそのエージェントのセッションを即座に失効させたり、検証や二要素認証などのワークフローを強制したりして、そのエージェントがエンドシステム上で試みようとしている動作が「本当に許可されているのか」を確認できます。
ハンター氏:結論、すべてリプレイスする必要はまったくないということですね。
ロイ氏(HashiCorp):その通りです。IBMは、皆さんが既に行っている投資を補完し、さらに価値を高めることを重んじています。
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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティとAI(人工知能)の分野を中心に、ソフトウェア/ハードウェアを問わず国内外の最新技術やルールメイキング動向を取材。そのほか、DX推進、IRなどのコーポレート領域でも情報を発信。※取材のご案内等は個人のメールアドレスか、EnterpriseZine編集部の問い合わせ窓口にお願いいた...
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