#024 彼氏の実在性を疑う眼差しが絵に書かれている掛け軸に！

彼氏の実在性を疑う眼差しが絵に書かれている掛け軸に！


「♪実在　しない　セーターを　涙こらえて　編んでます」

実在しない演歌歌手が実在しない涙をこらえて歌う
非在の街角で、たったひとつだけ確かなものがあるとしたら、
そう、それはマネー。

実在しない人々が、リアルな現ナマをどうやって取り引き
できるのでしょうか。そこには巧妙なからくりがありました。
彼らが編み出したのは、紙幣を折るという手法です。
たとえば、千円札をターバンをかぶった野口英世の姿に
折りあげることで、お札の人物を非在のフィールドに引き込み、
強引に取り引きを成立させてしまうのです。
この手法を用いて、実在しない愛も実在の金で買うことができるようになりました。
こうして、非実在彼氏の誕生への道筋が整えられたというわけなのです。

さて、一般に、非実在彼氏は、ちかごろ世間をにぎわせた
いわゆる非実在青少年の一種だと考えられていますが、
実はこれは間違いです。
非実在彼氏はたしかに非実在ですが、青少年ではありません。
「彼氏」というものが一般的にはさわやかな好青年で
あることを期待されるのを鮮やかに裏切って、
たいていの非実在彼氏は、おおきな錆びた鉄の塊です。
実在しない鉄塊を「彼氏」とみなすことは、
たいていの人にとって大きなチャレンジです。
ここにこそ、非実在彼氏の存在意義があるのです。

肩に大きな鉄の塊の幻を乗せて歩く女性の姿を、
実在するほうの町で見かけたことのある方も
多いでしょう。これが彼女たち（実在する）にとって
ステータスシンボルなのです。
実在のお金で非実在の彼氏を買い、実在しないセーターを
そっと羽織らせ町へ出る、それが彼女たちのリアルなのでしょう。

さて、このようにまったく実在性のない話を延々書き連ねて
きましたが、ただひとつだけ確かなものがあるとしたら、
そう、それはマネー。

ターバンを巻いた野口英世はその後ささいな行き違いから
外人部隊に入ることになり、アフリカやエジプトの戦場で
めざましい戦果をあげたといわれていますが、
それはまた別のお話です。

ちなみに、存在しないセーターはあっても、存在しない
襟巻きというものは存在しないようです（そもそも非在ですが）。
襟巻きのほうが編みやすいため、容易に実在してしまいがちなの
だろうと、編み物の専門家（非実在）は語っています。
 

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