人間力で特許がとれる! 東京湾でアサリがとれる!
私はいま、特許庁に来ています。
より正確に書くと、肉体は自宅にありますが、
精神だけが想像上の特許庁を訪れています。
訪問の目的はもちろん、ストレンジな特許出願の渉猟です。
特許出願の記録が人間精神の宝石箱であることは
インターネットにお住まいの好事家の方々にはすでに
よく知られていますが、ここ最近、特に多いのが
アイフォーンやアイパッドでおなじみのフリック入力に
影響を受けた特許出願である、という情報が入ったため、
事実をたしかめるべく、朝食もそこそこに家を飛び出し(精神が)、
特許庁(想像上のものですが)の門を叩いたという次第です。
それでは、早速めぼしいものをピックアップしていきましょう。
・クリック入力(特願2010-63540)
「画面全体がクリック可能になっており、どこを押しても
小気味良いクリックの音がするため、精神衛生にとてもよく、
また、ツボ押しの効果によってインターネットが浄化され、
クリックするたびにあらかじめ設定した一文字が入力されるので
私はもちろん「愛」という文字を設定しています」
・クイック入力(特願2010-525758)
「自分の精神をある特殊な状態に置くことで、非常に高速な入力が
おなじ室内にいる自分以外のすべての人間に可能になるという
手法であり、主観的な一日の長さも短縮されるため、すぐに帰宅できると
いうメリットもあり、自分はこの手法を用いることによって
解雇されましたが、ふしぎと後悔はありません」
・フリック人力(特願2010-39731546)
「何度もフリックの動作を繰り返すことで人間力が向上する、
つまり魂の素振りであり、フリックがどういう動作を意味するかは
個人の裁量に任され、自由であり、風通しのいい社会の実現が
可能になると私どもは考えています」
・フリック入刀(特願2010-5798454669774113)
「ケーキ入刀の際に、フリックの動作を加えることで
新婦が参列者に与えることのできる情報量(*生クリームのこと)が
飛躍的に増大し、より上質のエンターテインメントを提供できる
ため、結婚に踏み切るカップルが急増、少子化も改善するなど」
・フリックス力(特願2010-687163857257956986)
「自然界に存在するフリックス力(りょく)を利用して
火を起こし、布団を乾かし、発火点を越えたため布団が炎上、
折からの強風でたちまち延焼し、焼け落ちた区画を上空から
見ると『愛』の一文字の形であったという(日記より)」
・フリック入力(特願2010-1001101010001001010101)
「やっぱりフリック入力は便利です」
この最後の一件、いちばん特許出願の体をなしていませんが、
気になっていま調べ直してみたところ、ここまで引用してきた
出願はすべて同一人物によるものであることがわかりました。
新しい入力方法を模索した結果、ネズミの嫁入りの昔話のように
本来のフリック入力に回帰したという、心温まるエピソードで
あったようで、これで私も安心して家路に着くことができます。
なお、精神のみの状態でこの文章を入力した方法ですが、
フリック入力にひっかけたネーミングを思いつけないため
特許出願の予定はありません。ご了承ください。
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倉田 タカシ(クラタ タカシ)
「ネタもコードも書く絵描き」として、イラストレーション、マンガ、文筆業、ウェブ制作、Adobe Illustratorの自動処理スクリプト作成など、多方面で活動。
イラストの他に読み札も手がけた「セキュリティいろはかるた」はSEショップより発売中。
河出文庫「NOVA2-書き下ろし日本SFコレクション」...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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