進捗の遅れは本当にベンダーのせいなのか?
企業における経営層の相当の割合が、「システム開発プロジェクトを仕切るのは情報システム部の役割だ」と考えています。それゆえ、ユーザーである業務側と開発作業を委託するベンダーを結びつける重要な役割を期待して、情報システム部を中心としてPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)が組成されることになります。
「ベンダーが品質の良いシステムをオンスケジュールで構築していれば、PMOは何も心配することはなく、いずれは新システムを前提とした新しい業務を開始できる」
システム開発をよく知らない業務部門の人間なら、そう考える人がいるかもしれませんが、情報システム部の人間が同じ認識を持っているようなら、そのプロジェクトは間違いなくスケジュール遅延による計画変更を余儀なくされます。なぜそのようなことを断言できるか、それをこれから説明しましょう。
最初に認識しておきたいのは、システム開発プロジェクトではユーザー側が担うタスクにこそ重要なものが多い、という事実です。特に旧システムから新システムへの移行が含まれる業務改革では、「データ移行」と「受入準備」の2つはユーザー側にも主要なタスクが割り当てられ、それらが実施完了とならない限り、プロジェクトは終わることができません。
1つめの「データ移行」でユーザー側が担う重要なタスクに、データクレンジングがあります。
クレンジングとは、データ内の不要な情報を削ったり、過去に入力された誤りを訂正して、論理的に整合性のとれた形に修正する行為を指しますが、”完全に正しいデータだけ”を保持しているシステムというものは、世界中を見渡してもそう多く有りません。銀行の勘定系システムでさえ、顧客の急な要望に応えたり、プログラムバクに起因する一桁単位の数字のズレなど、掘り返せば色々な不整合を見つけることができますし、システム統合などでは双方のデータ項目定義が異なるために修正が求められるケースなどは枚挙に暇がありません。赤や青の看板を掲げる銀行の統合プロジェクトを筆頭に、企業合併に伴うデータ統合で苦労した人は星の数ほどいることでしょう。
このデータクレンジングを間違いなくやり切るためには、データの正しさを判断するのにそのクライアントの業務に精通している人間が必要になります。付き合いが深いベンダーならば、そういった業務目線の要員を多少はアサインできるでしょうが、そういったケースは例外的であり、多くの現場ではユーザー側の業務担当者を引っ張り出して、膨大なデータの精度チェックをしてもらうことになります。
2つめの「受入準備」でユーザー側が作業を担うのは当たり前ですね。
なんと言っても、新システムを前提とした業務オペレーションを実際にまわしていくのはユーザー側の人々であり、新しい業務オペレーションが浸透していなければ、新システムの業務を遂行することはできません。
しかし、この「浸透」をやり切るまでが非常に大変です。その業務に携わる人が数人程度なら、ベンダーが手取り足取り教えることも出来ますが、対象が1000人だと言われたらどうでしょう。相手が全国の営業店に点在しているなんて条件がさらに加われば、人海戦術で対応することは非現実的です。その場合、ベンダーから直接やり方を教わるユーザ側の現場トレーナーを一定数育成し、各現場への浸透は彼らに担ってもらうことになります。e-Learning教材で研修を進める方法もありますが、その理解度や実務上の懸念の有無を判断するのは現場責任者の役割ですし、そもそもユーザー側の各担当者は自分たちの新しい業務オペレーションを覚える作業に取り組むわけですし、やはりユーザー側のタスクが重要です。