「全人類、全デバイスが常時ネットに接続される時代とはどういうものなのか。少なくとも従前のITのあり方ではやってけない」 - 1月10日に開催された日本ヒューレット・パッカードの2012年におけるエンタープライズサーバ/ストレージ/ネットワーク製品の事業戦略説明会において、同社代表取締役 社長執行役員の小出伸一氏はこう発言した。人類がいまだかつて経験したことのないゾーンに突入する2012年、変化せざるを得ない日本のIT環境をHPはどう支えていこうとしているのか。その中心は"Moonshot"と"Odyssey"という2つの新プロジェクトに込められているようだ。
小出社長は日本が直面する課題として、「超高齢化社会、エネルギー問題、安全・安心」の3つを挙げ、これに向き合うには「社会、企業、教育、ICT、行政、公共という6つの側面から成る"FUTURE CITY"の実現が不可欠。そしてHPはICTで貢献を果たしていきたい」と語る。そしてFUTURE CITYを支えるイノベーションの4要素「インフラストラクチャ」「ソフトウェア」「サービス」「ソリューション」の中でも、「とくにハードウェアを含むインフラに照準を定めたプレイヤーとしての役割を負っていきたい」としている。
HPが言うところのFUTURE CITYとは、冒頭の小出社長の発言にあるように「全人類、全デバイスが常時ネットに接続される時代」に適した環境である。それは指数関数的に増大するサービス要求を満たすものでなくてはならない。
「FUTURE CITYを実現するには、消費電力も、スペースも、コストも、管理工数もすべて大幅に削減するICT環境が必要」(小出社長)
HPのエンタープライズ事業部門がFUTURE CITY実現のために始動するプロジェクトが「Moonshot」、そして「Odyssey」だ。
データセンターに革命を―Moonshot

エンタープライズサーバー
・ストレージ・ネットワーク事業統括
杉原博茂氏
Moonshotはひとことで言えば「データセンターに革命を起こすプロジェクト」(日本HP 執行役員 エンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括 杉原博茂氏)となる。
同社は「2015年までに全世界のサーバマーケットの15%が超低消費電力サーバになる」と予測しており、劇的な省電力と省スペースを実現するインフラをMoonshotで提供するとしている。
手のひらに載るサイズのノードには消費電力6W程度の小さなサイズのサーバが4台搭載されている。そして72ノードで1トレイ、10トレイで1ラックを構成する。ここにできあがるのは「1ラックに2,880台のサーバが搭載されたシステム」であり、従来比で「消費電力89%、スペース94%、コスト63%、管理工数97%」の削減を実現するという。もっと具体的に言えば、「コンテナ型データセンターであれば10台のラックが搭載できる。つまり約20平方メートルのスペースに2万8,800台の物理サーバが設置可能」(杉原氏)になるという。
この計算で行くと、日本の全人口(1億2,000万人)に1人1台のサーバを割り当ててても「東京ドーム1.7個分の面積(8万平方メートル)」で済むとのこと。仮想化する必要もなく、分離性/マルチテナント性を確保することができる。
同社はMoonshotで提供する基盤を「ハイパースケールアウトサービスを実現する、想像を超えたテクノロジ」(日本HP エンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括 サーバーマーケティング統括本部 統括本部長 上原宏氏)と表現している。
活用シーンとして考えられるのは、SNSやeコマースなどの巨大Webシステムや大量のコンピューティングパワーを必要とするHPC、高い分離性を求められるホスティングシステム、膨大なトラフィックをさばくストリーミングサーバ、大量ノードで超高速処理が求められるビッグデータ分析など。
上原氏は「Moonshotは他社には真似できない斬新でイノベーティブなプロジェクト。一般的なサーバビジネスとはまったく趣を異にする。いままでの使い方の延長線上ではない、まったく新しい用途をお客様と一緒に創り上げていきたい」としており、顧客とともにMoonshotで新しいビジネスを早終していきたいと強調する。
Moonshotの最初の製品化は2012年上半期が予定されている。日本HPによれば、サーバに搭載されるCPUはARM、ATOMなどが有力だが、HP自身がMoonshot用のチップ開発を行うことはないとしている。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
五味明子(ゴミ アキコ)
IT系出版社で編集者としてキャリアを積んだのち、2011年からフリーランスライターとして活動中。フィールドワークはオープンソース、クラウドコンピューティング、データアナリティクスなどエンタープライズITが中心で海外カンファレンスの取材が多い。
Twitter(@g3akk)や自身のブログでITニュース...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア