小出社長は日本が直面する課題として、「超高齢化社会、エネルギー問題、安全・安心」の3つを挙げ、これに向き合うには「社会、企業、教育、ICT、行政、公共という6つの側面から成る"FUTURE CITY"の実現が不可欠。そしてHPはICTで貢献を果たしていきたい」と語る。そしてFUTURE CITYを支えるイノベーションの4要素「インフラストラクチャ」「ソフトウェア」「サービス」「ソリューション」の中でも、「とくにハードウェアを含むインフラに照準を定めたプレイヤーとしての役割を負っていきたい」としている。
HPが言うところのFUTURE CITYとは、冒頭の小出社長の発言にあるように「全人類、全デバイスが常時ネットに接続される時代」に適した環境である。それは指数関数的に増大するサービス要求を満たすものでなくてはならない。
「FUTURE CITYを実現するには、消費電力も、スペースも、コストも、管理工数もすべて大幅に削減するICT環境が必要」(小出社長)
HPのエンタープライズ事業部門がFUTURE CITY実現のために始動するプロジェクトが「Moonshot」、そして「Odyssey」だ。
データセンターに革命を―Moonshot
Moonshotはひとことで言えば「データセンターに革命を起こすプロジェクト」(日本HP 執行役員 エンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括 杉原博茂氏)となる。
同社は「2015年までに全世界のサーバマーケットの15%が超低消費電力サーバになる」と予測しており、劇的な省電力と省スペースを実現するインフラをMoonshotで提供するとしている。
手のひらに載るサイズのノードには消費電力6W程度の小さなサイズのサーバが4台搭載されている。そして72ノードで1トレイ、10トレイで1ラックを構成する。ここにできあがるのは「1ラックに2,880台のサーバが搭載されたシステム」であり、従来比で「消費電力89%、スペース94%、コスト63%、管理工数97%」の削減を実現するという。もっと具体的に言えば、「コンテナ型データセンターであれば10台のラックが搭載できる。つまり約20平方メートルのスペースに2万8,800台の物理サーバが設置可能」(杉原氏)になるという。
この計算で行くと、日本の全人口(1億2,000万人)に1人1台のサーバを割り当ててても「東京ドーム1.7個分の面積(8万平方メートル)」で済むとのこと。仮想化する必要もなく、分離性/マルチテナント性を確保することができる。
同社はMoonshotで提供する基盤を「ハイパースケールアウトサービスを実現する、想像を超えたテクノロジ」(日本HP エンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括 サーバーマーケティング統括本部 統括本部長 上原宏氏)と表現している。
活用シーンとして考えられるのは、SNSやeコマースなどの巨大Webシステムや大量のコンピューティングパワーを必要とするHPC、高い分離性を求められるホスティングシステム、膨大なトラフィックをさばくストリーミングサーバ、大量ノードで超高速処理が求められるビッグデータ分析など。
上原氏は「Moonshotは他社には真似できない斬新でイノベーティブなプロジェクト。一般的なサーバビジネスとはまったく趣を異にする。いままでの使い方の延長線上ではない、まったく新しい用途をお客様と一緒に創り上げていきたい」としており、顧客とともにMoonshotで新しいビジネスを早終していきたいと強調する。
Moonshotの最初の製品化は2012年上半期が予定されている。日本HPによれば、サーバに搭載されるCPUはARM、ATOMなどが有力だが、HP自身がMoonshot用のチップ開発を行うことはないとしている。