IT以外の問題とITのつながり
まずクロサカ氏は、被災地を訪問してヒアリングしたところ、「通信や情報以前に、まず電気がないことが一番の課題」という事実が見えたと語る。IT以前の基盤がやられてしまうという極限状態が数日から数週間、数ヶ月も続くような場所があったためだ。そこでクロサカ氏は「ITが何によって支えられているのかを再認識しなくてはならない」と感じたという。
また、3.11では情報処理の能力も失われた。それは、処理能力のある業務スタッフが津波の被害に遭うなどして、迅速な対応ができなくなったためだ。つまり、「情報基盤は社会資本に支えられ、情報の上には人間がいる(図)。このすべてがつながることで価値となるため、どれかひとつが欠けても意味をなさなくなる」とクロサカ氏は指摘した。
ITを活用し復興に役立てる海外の事例
一方の藤澤氏は、「復興は国がやることだと思っている人もいるが、国が対応できる問題は限られてきている」と話す。「復興には行政と民間との連携が必要。しかし復興関連情報は自治体にあり、民間は何をしていいのか分からない状態だ。行政と同じレベルで民間が情報を持てば、住民側が自ら解決できる問題もある」と藤澤氏は述べ、行政と民間の情報の橋渡しとしてITができる役割は大きいのではないかと指摘する(図)。
藤澤氏は、民間がITを活用して復興に役立てることができそうな海外のサイトを3つ紹介した。アメリカの「GovLoop」というサイトは、政府関係者のためのSNSとしてスタートしたサイトだが、今では行政サービスに興味を持つ一般人も参加している。また、非営利団体の「AmericaSpeaks」は、2005年にハリケーン・カトリーナの被災地となったニューオーリンズの復興計画作りに活用された。さらに、イギリスの「JustGiving」は、ネット上で募金集めするためのツールを用意している。
このようなサイトがあれば復興に活用できる可能性を示唆しつつも、同時に藤澤氏は「地域でITが活用されるには、デジタルデバイドや地域差といった課題もある。FacebookのようなSNSも地方ではあまり使われていないことを念頭に置かなくてはならない」とした。
建築家が見たITの活用法―シミュレーション型の設計
建築家の勝矢氏は、ITとは異なる業種で仕事に取り組む人物だ。同氏の事務所では、被災地の危険性を可視化するために、津波の危険性が高い地域や避難経路的に逃げ遅れる可能性の高い地域などを示した地図を作ったが、その際にITの果たす役割があると感じたという。
例えば、危険地域のすべてに高台を作ることは、技術的には可能だとしてもコストがかかる。そのため、合理的な防御法を選択しなくてはならないが、「例えば安全な避難経路をITでうまく人に伝えることもできるはず。これまでリスク情報は、一部の専門家にしか知られていなかったが、今の時代はもっと様々な方法で伝えることができる」と勝矢氏。
また、コンピュータシミュレーションにて、津波の動きがシミュレーションできるだけでなく、人が避難する経路もシミュレーションできるのだという。「不確定だと思われていた人の動きも、技術でシミュレーションできるようになった。例えば、今までは“この地域にこのような建物を建ててはいけない”となるだけだったのが、今では“10分以内に逃げられるのであれば”という条件付きで、ルール型ではなく、シミュレーション型の設計ができる」と勝矢氏は述べた。