ラグビーでもビッグデータ活用が始まっている
スポーツではラグビーが好きだ。と言うと、体型を見てなのか「やってたんですか?」と聞かれることが多い。いやいやもっぱら観戦だけ、あんな痛そうなスポーツ到底できそうもない。つい先日までは日本代表が活動していたが、夏はラグビーはオフシーズン。これからは、菅平や網走など涼しいところで夏合宿が行われ、秋からのシーズンインに備える時期だ。
ところで、ラグビーというと激しいタックルでダメージを受け、倒れてしまった選手のところに「ヤカン」を持った人が駆けつけ、魔法の水をかけると何事もなかったように起き上がり再びプレーをする。こんなイメージを持つ人が、まだいるかもしれない。いまではさすがに、この「魔法のヤカン」は登場しなくなった。このようにスポーツの中でも精神力と根性の象徴と思われているラグビーの世界でも、なんとビッグデータの活用を開始しているらしい。
先日のジャパンXV(フィフティーン、日本代表と表現しないのは対戦相手が国代表ではなかったので、代表と同等な15人のメンバーという意味)とフレンチバーバリアンズ(フランスのプロリーグで活躍する選手からの選抜メンバーにより構成したチーム)の試合の際、代表となる選手選考を発表した記者会見で、「スコッド(Squad)の中で3人は最初からセレクション対象外とした。すなわち、キャプテンの廣瀬、隆道、仙波。理由はフィジカル面のデータが、日曜日にはベストのパフォーマンスが出せない可能性が高いことを示していたため。試合を重ねてきた影響が出ているので、日曜日のセレクションの対象から外した」との説明があった。これ、どういうことかというと、それまでの連戦の試合中に取得していた、上記3選手の各種ワークレートを示すデータを分析した結果、次の試合ではベストのパフォーマンスが得られないことが分かったので対象から外したということなのだ。
GPSデータの利用はサッカーなど、他の競技でも行われているだろう。ラグビーの世界では、2009年頃(おそらく海外ではもっと早い時期)から、選手にGPS端末を付け練習中や試合中にさまざまなデータを取得し活用をしている。当初は、携帯電話を少し小さくしたくらいの端末を腰の部分に装着していたようで、主に練習中にどのように選手が動いているかのデータを取得し、得られたデータは怪我の予防などに役立てていたようだ。現在では、背中に背負うような形のさらに小型のGPS端末も登場している。首の後ろあたりに装着するのでタックルの影響も受けにくく、これなら試合中でも利用できるようだ。練習よりもやはり試合中の細かなデータの取得ができるのは、選手の状況を分析する上では大きな進化だろう(ジャパンの選手が実際にどのような端末を付けているかは、確認できていない)。
取得しているデータは走行距離はもちろん、速さや、加速、衝撃(インパクト)など。同時に心拍数も計測しているようだ。上記記者会見では「廣瀬に関しては、加速の回数が減っていた。それは疲労の蓄積が顕著であることを示している。ということで、4日後に再び試合をするのは、過剰すぎるという判断をした。それ以外の判断も基本的にはデータを元にしている」との説明があった。
GPSのデータは1秒ごとに計測でき、技術的には試合中にほぼリアルタイムで取得できるようだ。Webで検索してみたのだけれど、ジャパンのチームがこれらデータ分析をどんなツールを用い、どのように行っているかはよく分からなかった。おそらくかつては、試合の様子を誰かが見ていてタックル数やボールタッチ数などを数え記録し利用していただろう。そこからすると、1秒ごとにGPSからデータが得られるというのは雲泥の差だ。まさにこれは、ビッグデータ分析の好事例と言っていいだろう。もう少し詳細に、データ取得の仕組みや、得られた分析結果をどう判断しているかなど、是非とも訊いてみたいところ。これはもう、日本ラグビーフットボール協会に取材依頼をかけなければだな。