本記事を含め2012年6月11日に実施された「ビズジェネカンファレンス2012」のカンファレンスレポート「経営視点のビジネスモデル・ジェネレーション」(PDF版)を、アンケートにお答え頂いた方全員にもれなくプレゼントいたします。
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パネスディスカッション:イノベーションを実現するための実践方法
小山
本日司会進行を務めさせて頂きます小山です。よろしくお願いします。今日の大きなテーマとして、「イノベーションを実現するための実践方法」という事で進めたいと思います。
なぜ日本企業からイノベーションが起きないのか
最初の問いですが、「なぜ日本企業からイノベーションが起きないのか」という事について議論をしたいと思います。特に最近では「なぜ日本企業はiPhoneを作る事が出来なかったのか」という指摘が多くなされています。イノベーションが起きない原因と課題を、皆さんと話していきたいと思います。まず初めに紺野先生、どのようにお考えでしょうか。
紺野
すごく難しい質問ですね(笑)。まず初めに「なぜ日本企業からイノベーションが起きないのか」という問いが本当に正しいのかという問題があります。例えば、世界の人々が日本にイノベーションが無いと思っているのかというと、そうでもないと思います。東京には3000万人が暮らしていますし、面白いビジネスがたくさんあると世界の人は思っています。しかし個々の企業の現場に行くと、イノベーションは起きていないと言っているのです。それは、イノベーションが起きる要素が十分あるのにもかかわらず、企業の持っている特質、傾向のために、起きていないように見えているだけなのです。もしかしたらプロジェクトマネージャーや研究開発の担当者の中で気づいていないだけで、イノベーションは起きているのかもしれません。
先ほどの講演でも述べましたが、ビジネスモデルには第一世代と第二世代があると考えられます。第一世代のビジネスモデルと比べて現在のビジネスモデルは、顧客中心である事、パートナーシップを重視する事、能力や知識などの見えないアセットに関しての視点を重視する事が違うと考えています。これを裏返すと、これまでの日本企業は非常にプロダクトオリエンテッドであり、コト(顧客)よりもモノ(製品)を見ていたと言えます。
また自社志向が強く、他社を含むパートナーシップについて考えなかった事や、ソフトに関しての関心が無かった事などが指摘できます。そういった意味で日本企業は十分に力がありながらも、これまでの思い込みによってイノベーションが起きていないと考えられます。そこで、このビジネスモデルの視点が広がる事によって、今までの思い込みが解放されるのではないかと考えています。
小山
紺野先生がご指摘された様に、キャンバスを使う時の感覚は視野が広がっていく感覚に近いかもしれません。例えば今まで新商品を作る時に、製造と研究開発だけに焦点を当てていたのが、パートナーシップとの関係性などを改めて考え直す事で、新しい視点から物事を見る事ができ、今までなかった発想が得られるのではないでしょうか。ある意味「目からうろこ」という効果があるのではないかと感じています。
ビジネスモデルキャンバスの有効性
小山
次に野中先生にぜひ伺ってみたいと思います。プレゼンテーションの中で、人間の知は暗黙知から形式知に進むとおっしゃられました。その形式知というのは、単なる言葉ではなく、その個人のパーソナリティや感情、身体的なものがのっている言葉であると思うのですが、ビジネスモデルキャンバスは形式知のフォーマットとして有効なのでしょうか。
野中
有効でないとは言えませんね(笑)。有効でないと言えないけれど、強みと弱みがあると思います。強みとして我々は暗黙知が豊富にあるわけですが、その暗黙知を綜合する能力が弱いと思います。まずは個々の経験の本質を徹底的に考え、さらにその個々の経験の本質を綜合して、より大きな問いに答えていかなければなりません。したがって暗黙知と同時に形式知、言語能力を磨いていく必要があります。そういった意味でビジネスモデルの良さは、価値命題が出来る事だと言えます。見えない本質を関係付けながら、我々の中にある暗黙知だけではなく、顧客の暗黙知をも触発し、その本質を達観する能力を身につける事が出来ると思います。このビジネスモデルはフレームワークとしては非常に良いと思いますが、暗黙知が豊かな人間が集まらないと、傍観者の遊びになってしまいます。
次に「なぜ日本にイノベーションが起こらないのか」という問いですが、現実にはいくつものイノベーションが個別企業の中で起こってきました。しかし企業と企業がアライアンスを組んでより大きなエコシステムとしてマーケットを捉えるとなると、水平的な広がりが重要になってきます。様々な企業を渡り歩く欧米の人たちは、知のダイバーシティつまり暗黙知が豊富であると言えますが、日本では終身雇用が多く、知が枯渇する可能性が非常に高いのです。したがって、企業間でプロジェクトをできる人材を育てる知的構造改革が必要であると考えるのです。