IT業界では毎月のように新しい言葉やトレンドが生まれては消えていきます。そういった言葉はよく"バズワード"と呼ばれ、ものすごく持ち上げるベンダやアナリストがいる一方で、急激な流行をきらう人たちから目の敵にされることも多いです。現在のトレンドで言えば、まず間違いなく「ビッグデータ」がそれに当たるでしょう。
「ビッグデータの波に乗り遅れると大変ですよ」「御社に眠るビッグデータを掘り起こしましょう」「ビッグデータでマーケティングに革新を」…などなどの煽り文句、ITにかかわるお仕事をしている方なら一度、いや、もうしょっちゅう耳にしているかと。
そして世の中には、ITに絡むバズワードが過熱気味になると、ものすごく強い拒否反応を示す方々がいらっしゃいます。ビッグデータもしかり。とくにその道のエキスパートの方々にとっては、技術に無知な人々が意味をほとんど理解せずに口にする「Hadoop」「非構造化データ」「プライバシー」という言葉の数々は腹ただしい限りなのだと思います。「ビッグデータとかで騒いでる奴、本当に馬っ鹿じゃねーの」という某有名アーキテクトの呪いの言葉、筆者は確かにこの耳で聞きました。以来、ビッグデータという言葉は時と場合と人を選んで使うようにしております…。
まあ、たしかにときどき、「ビッグデータ分析とは購買履歴など消費者の行動をターゲティングして売上に結びつけるマーケティング手法」などと残念な解説を聞くこともあるわけで、なんでそんなに技術系の人をいらっとさせるような誤解がはびこってしまうのかなー、これはクラウドのときよりもひどいなー、と考えてみたわけですが……原因はバズワードのくせに、この"ビッグデータ"という言葉、明確な定義が存在しないからなんだろうと思います。サイズが大きければビッグデータなのか? 非構造化データならビッグデータなのか? 面白い分析が得られればビッグデータなのか? このあたり、ITベンダごと、スペシャリストごとにいうことがまちまちなので、エキスパートはイラッとするわ、一般ピープルは混乱するわで、とにかくカオスな状態がここ1年ばかり続いているわけです。
そんなカオス状態にある現在のビッグデータ界隈なわけですが、豊富な事例と丁寧な解説でビッグデータの本質に迫っているのが、本書『ビッグデータの衝撃―巨大なデータが戦略を決める』(城田真琴 著/東洋経済新報社)です。312ページの大作ですが、IT関係者はもちろんのこと、ビッグデータに"関心がある"くらいの知識でも十分に読み通すことができます。そして、全体的に良い意味で"スキのない"本に仕上がっています。ビッグデータという言葉に拒否反応を示す方々が(技術的な)穴を探そうとしても穴がない、という感じでしょうか。このあたり、著者の城田さんはさまざまな方面に相当気を遣われたのではないかと勝手に推測しております…。
せっかくの良書なので、以下、もうすこし詳しくレビューしてみたいと思います。