そして今回、数ある事例発表の中でも日本から参加したユーザ企業や、我々メディア関係者の心を深く揺さぶったのがニッセンによるFacebook×テラデータのマーケティング活用事例でした。通販事業を展開するニッセンは"顧客の理解"がいまも昔も変わらない事業の根幹です。そのためには多様で大量のデータをつねに必要としており、同時にそれらのデータを可能な限り速く分析し、アクションを決めていかなければなりません。その核となる分析システムをテラデータのデータウェアハウジングが支えているというこの事例、ちょっと大げさな表現をすると、単なるビッグデータ活用というよりも、あらゆる面で日本のエンタープライズITの新しいあり方を象徴するような、本当にすばらしい発表でした。その感動が薄れないうちに、本稿でみなさまにご紹介したいと思います。
スマホとソーシャルはeコマースにとって重要なトレンド
多くの方がご存じの通り、ニッセンはカタログによる通信販売を事業の主体とする企業です。全カタログの年間総発行部数は約2億、うち5,000万部はメインの生活総合カタログ「nissen」です。紙モノの出版物が激減しているこのご時世にあって、年間5,000万部を国内の消費者に届ける力があるということ自体、驚異的でもあります。
カタログ販売主体のニッセンですが、当然、Webを利用したeコマースにも力を入れており、2010年上半期にオンラインでの売上が全体の半分を超えたのを境に、現在もその比率をさらに伸ばし続けています。そしてその中でも急激な成長を遂げているのが、スマートフォンからの売上です。2011年1月におけるスマホからの売上は全体の2.1%でしかなかったのが、同年12月には21.9%、金額ベースでも約11倍という伸びを見せています。すでにガラケーからの売上を抜いたとのことで、ニッセンではこの傾向は当面続くと見ています。
モバイルに加えてもうひとつ、ニッセンが最重要視しているトレンドがソーシャルメディアです。創業時からつねに"顧客の理解"に基づいたビジネスを展開してきたニッセンは、「顧客に応じて送付するカタログの中身を差し替えている。Webで表示するトップページ(マイページ)や商品紹介ページもユーザの属性にあわせて変更している」(ニッセン マーケティング本部 CRM推進部 ソーシャルメディアチーム セクションマネージャー 柿丸繁氏)というくらい、徹底したパーソナライズドマーケティングを行っています。たとえば、ユーザが二世帯住宅に住んでいるとわかればシニア向けのカタログも混ぜて送付する、育児中の女性であれば子供服の情報をマイページに豊富に表示する、といった具合です。そしていまの時代、より深く顧客を理解していくためには、社内に蓄積された既存のCRMの情報だけではなく、FacebookやTwitterといった外部のソーシャルメディアからデータを得る必要性を感じていると柿丸氏は語ります。
「企業から一方的に消費者に対して情報を発信していく時代はもう終わった。情報の主体はいまや消費者であり、消費者との間にエンゲージメントを結ぶことがマーケティングにおいても非常に重要」(柿丸氏)
セッションにおいて柿丸氏は日本でどれだけソーシャルメディアが浸透しているかについて、昨年12月の"バルス事件"を引き合いに出し、各国からの参加者に紹介しています。TV放映された映画『天空の城ラピュタ』の終盤、呪いの言葉"バルス"が発せられるのにあわせてTwitterユーザがいっせいに「バルス」とつぶやいたというこのエピソード、秒間2万5,000というツイート数を記録し、Twitter社から正式にワールドレコードとして認定されています。何か商業的なマーケティングが絡んだ出来事ではありませんでしたが、情報発信の主体が消費者に移ったという事実を示すにはわかりやすい事例だといえます。
ソーシャルメディアはスマホと非常に親和性の高いメディアでもあります。スマホユーザの占める割合が大きくなればなるほど、相関的にソーシャルメディアの重要性も高まることは間違いありません。そして従来からの顧客であるPCユーザの多くもまた、何らかのソーシャルメディアを利用している現在、"より深い顧客の理解"を標榜するeコマース事業者のニッセンがソーシャルに散在する膨大なVOC(Voice of the Customer)を有効活用し差別化要因にしたいと思うのは当然でしょう。