医療のように強固なフレームワークの整備が急務
病気とトラブル・プロジェクトには、多くの共通点がある。ともに「人」にまつわる事象であり、早期に手を打つほど影響は軽微、また、適切な対策により予防も可能だが、対処(治療)には専門知識と経験が必要だ。トラブル・プロジェクト対策において、予防・診断・治療といった医療行為に学ぶべき点も少なくないだろう。
ただし、医療とプロジェクト・マネジメントを取り巻く環境の“ 厚さ” には大きな差がある。今日、私たちがこれだけ充実した医療を受けられるのは、まず、医療行為を支える社会の仕組みによるところが大きい。
例えば、医師は国家資格であり、医師国家試験への合格および2年以上の臨床研修を受けなければならない。これに対して、プロジェクト・マネジメントの仕事は、まだ多くの企業において資格という概念で扱われず、ロール(役割)として定義されている。PMP(Project Management Professional)というプロジェクト・マネジャーの公的資格は存在するが、国家資格ではない。
法律についても、医療法、医師法、薬事法、薬剤師法など多数の法律やガイドラインに支えられた医療に対して、プロジェクト・マネジメントに関する法律は存在しない。規律を支えるのは「倫理と行動規範」だけだ。
また、医療は、学門・研究教育基盤としての「医学」にも支えられている。基礎医学では約10種類の分野、応用医学では50種類以上の実績を持った分野が確立されており、医学部を有する大学も国内に80大学ほどある。一方、プロジェクト・マネジメント学と呼べるものは基礎分野でせいぜい3~5種類。多くの論文が発表されているものの、ほとんど応用分野として「分化」していない。基礎研究・教育を行う大学(学科レベル)もごく少数だ。
こうしたプロジェクト・マネジメントを支えるフレームワークの整備が急務であることを瀬尾氏は強調した。