技術の変化~クラウド、モバイル、ソーシャル、インフォメーション
ITへの期待が、これほど表立って高まっている状況は、IT業界の長い歴史を見ても初めてかもしれません。それは、メインフレームやサーバーなど、システムを構築する側から発信するだけではなく、スマートフォンやソーシャルメディアなど、コンシューマー側の技術が台頭し、企業システムに取り込まれようとしているからです。
実際、昨年、ガートナーが調査した結果によれば、取締役会におけるITへの期待は高まっており、世界中のCEOの意思決定に大きな影響を与えているそうです。ガートナーは、最近のITトレンドとして、「クラウド」、「モバイル」、「ソーシャル」、「インフォメーション(情報)」を挙げ、これらが結束することによって、企業や組織の仕組み、アーキテクチャが変化するだけではなく、必要とされる人材のニーズやビジネスの将来的な運用の視点なども中長期的に変わっていくと強調しています。
インフォメーションは当たり前としても、クラウドによってさまざまなサービスを一気に広げるためのプラットフォームが整備され、モバイルによって、いつでもどこでもソーシャルメディアにコミュニケーションできる環境が十分に整備されてきています。それが、企業システムにどんな変化を及ぼすかは、計り知れません。
IT投資の変化~保守運用コストの低下傾向にともなう新規IT投資の拡大
次々に新たな技術が登場する一方、IT投資はどのような変化を見せているのでしょうか。最近、JUASから発表された「企業 IT動向調査 2013」(図)によれば、IT投資における中期的重点投資分野として、顧客情報・営業支援(SFA、 CRM)が最も高くなっています。これに、生産・在庫管理、販売管理、経営情報・管理会計が続きます。 生産・在庫管理は言ってみれば、製造業なら必ず存在する業務領域ですし、販売管理はあらゆる企業にって欠かせない業務領域です。また、経営情報・管理会計は、会社として経営計画をたて企業制度にそって納税していくために必要な業務領域です。
それを上回って、マーケティング分野が1位になる背景には、2つの原因があると考えられます。これまでIT投資の重しとなってきたIT保守運用コストが、機器費用の低下やクラウドの普及によって低減化され、新規のIT投資にキャッシュを回せる状況になりつつあること。もう一つが、スマートフォンやソーシャルメディアなど、新たな技術を活用することによって攻めのIT投資がしやすい環境がそろっていることです。
従来、IT保守運用コストは、IT投資全体の約7割というのが通説でした。しかし、昨今の統計を見ると、年々、その比率は低下し、最近では5割を切るところまできています。IT投資は企業の売り上げにほぼ比例しますから、大手ほど新規投資に回せるキャッシュがあり、マーケティングなど、攻めのIT投資がしやすいというわけです。
ガートナーは、スマートフォンなど最新のITトレンドの傾向から「2017年にはマーケティング部門が行使できるIT予算が情報システム部門を上回る」と予測を立てています。マーケティング領域は、在庫量や生産効率などで評価できる生産管理などと異なり、効果を把握しにくい分野だけに、一時的にIT予算が高まったとしてもはたして継続できるのか、筆者は疑問を感じずにはいられません。
ですが、前述したように、ITの保守運用コストの低下傾向にともなう新規IT投資の拡大を考えると、けっして大げさではないのかもしれないと思っています。むしろ、問題は、IT投資を増やし継続的に効果を出せるだけの、技術向上と人材拡大にあるのではないでしょうか。