エンジニアに技術力はあってもそれを十分に生かし切れていなかった
ソリューション推進本部の仕事は、ある意味SIの仕事とも言える。IT企業が提供するSI仕事がサーバーなどのコンピュータ機器やソフトウェアを組み合わせるのに対し、KDDIのソリューション推進本部が中核とするのはもちろんネットワーク。それにルーターやサーバーなどのIT機器を組み合わせ、必要なソフトウェアやサービスも含めて提供する。もちろん、構築だけでなく、運用サービスも含め提供するのが、同社のソリューションビジネスの特長だ。
KDDIがこのソリューションビジネスに、本格進出したのは2006年。それまでは通信サービスが本業だったこともあり、新たなソリューションビジネスの出だしは、決して順調ではなかった。
「サービス品質は、あまり褒められたものではありませんでした。結果的には、利益もあまり上がりませんでした」と村山氏。とはいえ、なんとかこのビジネスは大きく育てていきたい。将来的には、ソリューションビジネスの案件をより多く回していけるようになりたいという、強い思いがあった。
サービス品質が必ずしも満足行くものでなかったのは、決してKDDIに技術力がなかったからではない。
「KDDIは他の通信事業者とは異なり、合併を何度も行い大きくなった企業だという経緯があります。なので社内には、これまでにさまざまな経験をしてきた技術者がたくさんいます」(村山氏)
さまざまな経験値のある技術者がいるのに、その人たちのスキルを適材適所で生かし切れていなかった。そのため、サービスの品質がなかなか上がらなかったのだ。
サービス品質向上のために独自の人財像を定義しスキルアップを図る
この状況を打開するにはどうしたらいいのか。1つの答えとしてたどり着いたのが「できる人をまねするべきだ」ということ。実際に仕事のできる人の行動を分析し、その人のノウハウを他のメンバーも活かせるようにする。さらに各技術者が、できる人のスキルを身に付けスキルアップすれば、サービス品質も向上すると考えたのだ。
そこで、まずはソリューションビジネスに携わる技術者を適切に把握するため、
・ビジネスコンサルタント
・ICTコンサルタント
・ICTアーキテクト
・エキスパート
という4つの人財モデルを定義した。ビジネスコンサルタントはソリューションビジネスの市場を創造でき、顧客の戦略パートナーになり得るようなスキルを持つコンサルタント。ICTコンサルタントは、顧客の課題を抽出し、それに対しきちんとした提案ができるスキルを持つ人財だ。そしてICTアーキテクトは、発見された顧客の課題を解決するプロジェクトを、確実に仕上げる能力を持つ技術者だ。最後のエキスパートは、技術的な専門分野において、極めて高いスキルを持っている「匠」のような存在だ。
「サービス品質を上げ、多くの顧客案件を実施していくには、これらの人財がどういう分布になっていればいいかを考えました。結果は、ビジネスコンサルタントが1%、ICTコンサルタントとICTアーキテクトがそれぞれ40%、そしてエキスパートが19%という分布となることを当面の目標としました。まずは、これに向かって人財育成をしていこうと決めたのです」と村山氏。
これを実践するには、社内にどういったスキルのメンバーがいるのか、それを把握しなければならない。そのためにまず、社内で知られている15人程度の「よくできる人」をモデルとして選んだ。その人にインタビューを実施し、そこから彼らを人財像に当てはめるところから始めたのだ。言葉で定義された架空の人財像ではなく、実際に高いスキルを持つ社員を当てはめる。そうすることで「各メンバーは身近に目標となる人がいるので、その人をあこがれの存在としてスキルアップが行えます」と村山氏は言う。
実際、経験2、3年目の若い技術者にあこがれの技術者について訊ねると、身近にいる先輩社員の名前が数多く挙がるそうだ。若い技術者の目標となる存在が身近にいる仕事環境、これはエンジニアの会社としてはうらやましい限りと言えるだろう。