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組織的なイノベーション、道具としてのデザイン思考

不確実性を越えユーザーに価値を届ける「学習マトリックス」と「2つの効果的質問」

(第4回) 


前回の記事では、「社会の変化」について扱った。変化の度合いが激しくなると、不確実性も増大する。今回は、「不確実性」をテーマに扱う。不確実性の存在を前提に、修正・破棄が前提の仮説構築を行い、テストを行うなかで、知識や情報を獲得することが重要である。低コストかつ対象領域を限定した、人間中心の発想で学習し続けることが、イノベーションを生み出す鍵となる。

不確実性とリスクの違い

 変化とは前提が変わることだが、それは不確実性の増大を意味する。不確実性にうまく対処できるかどうかが、イノベーションの実現を左右する。不確実性をコントロールするには、新しい知識の獲得、つまり「学習」が欠かせない。

 今回の記事では、

  1. 不確実性とは何か、なぜ学習という考えが重要なのか
  2. 学習の際にどのような原則を意識すべきか

について、事例も交えながら紹介したい。

 不確実性とは、先の様子が判断できない際に発生する。多くの人や組織は不確実性そのものを避け、既に価値が明らかな既存の製品やサービスに固執する傾向がある。これは今に始まった話ではない。

 1903年のミシガン貯蓄銀行頭取は「馬車は定着している。しかし車は違う。一時的な流行に過ぎない」と述べた。後に自動車の大量生産方式を確立するフォード・モーター社への投資に対する彼の意見は否定的だった。今から考えれば的外れな意見だが、彼の態度にもある程度の理がある。既に普及している馬車の需要は予測できるが、まだ普及していない車の需要は予測できないからだ。

 一般的に、予測できるものはリスク予測できないものは不確実性と表現できる。リスクの例として火災保険がある。火災保険を扱うのであれば「火災発生は137件/日(平成23年度:消防白書)」といったデータや、平均的な被害額などの情報を集めることで、保険の需要も算出が可能だ。リスクは、過去の情報を元にした分析や計算によって管理ができる。重視されるのは「データは正確で量は十分か」といった客観的な視点だ。

 一方、不確実性はまったく予測ができない。たとえば、新たな科学的発見、今までにないビジネスの創出などは、過去に前例がないためデータも手に入らない。予測が不可能な状況において、頼りになるのは主観的な体験や知識だけだ。また、試作品を利用してもらうことで、「今まで知らなかったユーザーのニーズがわかった」ということがある。これはユーザーに関する新しい知識を獲得したことと等しい。

図表1.学習と予測精度の関係(参照:Govindarajan,V., Trimble,C., 2012)

 新しいことを学べば学ぶほど、予測の精度は高まり、不確実性が低減していく。競合他社が気づいていないユーザーのニーズを把握出来れば、事業の成功可能性も高まっていく。

 では、具体的にはどうやって不確実性を減らせばいいのだろうか。つまり、どのような原則で学習していくべきだろうか。1つは「低コスト」、もう1つが「学習領域の限定」だ。具体的に見てみよう。

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低コストで学習する

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この記事の著者

柏野 尊徳(カシノ タカノリ)

岡山県出身。専門はイノベーション・プロセス。スタンフォード大学d.schoolでイノベーション手法:デザイン思考を学ぶ。同大学発行の『デザイン思考家が知っておくべき39のメソッド』監訳など、デザイン思考関連教材は公開6ヶ月でダウンロード5万件。岡山大学大学院で3年間教鞭を執った後、慶應義塾大学SFC(湘南藤...

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