前回までの連載では、アイデア創造に焦点を当てた。今回は、これまでのプロセスによって生み出されたアイデアを形にし、新しい学びを手にできるプロトタイピングとテストについて取り扱いたい。具体的には、プロトタイプの概要や、プロトタイプの変数設定方法、プロトタイプをユーザーと一緒に試す方法について順に紹介していく。
「プロトタイプ」は、“新たな学び”を創造するためにつくる
アイデアをある程度絞り込めたら、次はそのアイデアを形にしていく。低コストでアイデアを形にしたものを、ここでは「プロトタイプ」と呼ぶ。プロトタイプは、失敗のリスクを最小化し、効果的な軌道修正を実現してくれる道具である。その形は、アイデアを絵で表現したポストイット、ユーザーの行動プロセスを示したストーリーボード、画用紙でつくったデバイスのインターフェイスなど、物理的なものであれば何でもいい。

プロトタイプの大きな目的は「新たな学びを生みだすこと」にある。たとえば、チームが設定した課題や創造したアイデアについて、学びを深めることもその1つだ。もしくは、ユーザーの立場に立って「新しい経験を提供するプロトタイプ」をつくることも、同じようにユーザーに対する学びの創造につながる。
プロトタイプ作成によって得られるメリットは3つだ。
1つ目が、「ユーザーに対する共感の獲得」だ。解決策の実行前であっても、プロトタイプがあればユーザーが抱えている課題やその周辺の文脈に対して理解を得ることができる。
2つ目が、「チームでのさらなるアイデア探求を可能にする点」だ。アイデアを形にする過程の中で、予期せぬ可能性に気がつき、探求する価値のあるコンセプトが見つかることもある。
3つ目は、「解決策のテストを可能にする点」だ。プロトタイプがあると、ユーザーと一緒になって対話しながら解決策を発展させられる。様々な反応を元にして、さらなる改善を行うことができる。
チームやユーザーと一緒に学びを深めるプロトタイプを作ることで、イノベーション実現に必要なものは何か、次に何をすべきかが見えてくる。「低コスト」という表現が示すように「粗い未完成品」を意識しながら、素早くプロトタイプをつくっていこう。
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柏野 尊徳(カシノ タカノリ)
岡山県出身。専門はイノベーション・プロセス。スタンフォード大学d.schoolでイノベーション手法:デザイン思考を学ぶ。同大学発行の『デザイン思考家が知っておくべき39のメソッド』監訳など、デザイン思考関連教材は公開6ヶ月でダウンロード5万件。岡山大学大学院で3年間教鞭を執った後、慶應義塾大学SFC(湘南藤...
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