前回の記事では、不確実性を低減させる「学習」について紹介した。今回は、学習と関係の深い「知識」について、イノベーション実践の観点から見ていく。組織的に知識の蓄積を実践していくことで、イノベーションの前提である「新結合」のための環境が作られることを紹介する。今までの連載は、こちら。
「知識の結合」がイノベーションの源になる
イノベーションを定義したシュンペーターによれば、「新結合」がイノベーション実践の前提となる。既存の要素を新しく結びつけることで、イノベーションが実現に向かう。結合させるものの代表例は、前回の記事でも紹介した「知識」だ。これらの要素を組み合わせることが、新たな価値を生み出すきっかけとなる。
クリステンセンらの研究結果においても、5つあるイノベーション能力のうち1つは、「関連付ける力」であるとされている。たとえば、1996年に設立されたイーベイは、創業者のピエール・オミダイアが以下の2つのことを関連付けた結果による。

1つ目は、彼の婚約者が熱心にレアなペッツ(PEZ:ペパーミント風味のキャンディー)のケースを収集していたこと。もう1つが、そういったレアな物を探し出す時に、地元で広告を出しても効果がないと知っていたことだった。
もちろん、この2つを組み合わせただけで、イーベイのような50億ドル規模の事業がすぐに出来上がるわけではない。しかし、イーベイ誕生のきっかけが、オミダイアの持つ知識にあったことは間違いない。
また、ソニーの盛田昭夫(当時会長)は「家に帰るなり、子どもが部屋のステレオのスイッチを入れる」ということを日々の生活から把握していた。若者がステレオ好きなことを経験的に知っていたのだ。
そこに、1:1978年に発売された小型のモノラル・テープレコーダー「プレスマン」、2:プレスマンから録音機能を取ってステレオ再生を可能にした改造機、3:超軽量・小型ヘッドホン「H・AIR(ヘアー)」の存在が組み合わさることで、再生専用・小型ヘッドホンステレオ「ウォークマン」が形になった。
このように、知識を土台にさまざまな要素を組み合わせることが、イノベーション実現において極めて重要となる。それでは、どのように知識を活用するべきだろうか。まずは、知識が持つ独自の特徴を把握する必要がある。
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柏野 尊徳(カシノ タカノリ)
岡山県出身。専門はイノベーション・プロセス。スタンフォード大学d.schoolでイノベーション手法:デザイン思考を学ぶ。同大学発行の『デザイン思考家が知っておくべき39のメソッド』監訳など、デザイン思考関連教材は公開6ヶ月でダウンロード5万件。岡山大学大学院で3年間教鞭を執った後、慶應義塾大学SFC(湘南藤...
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