名称も新たに「アナリティックス・プラットフォーム」として投入
「MicroStrategy Analytics Platform」はマイクロストラテジーの久々のメジャー・バージョンアップである。これまで同社のBI製品は「Microstrategy」という社名にバージョン名を加えた名前を製品名としてきたが、今回「アナリティクス・プラットフォーム」という名称に変更したことからも同社の意気込みが伺えるだろう。
ビジネス向けの包括的なスイート製品として、(1)セルフサービスアナリティクス、(2)エンタープライズBI、(3)ビッグデータアナリティックス、の大きく3つで構成される。これらの特長を見ていこう。
エンドユーザーが自在に作り上げるダッシュボード
これまでもダッシュボードやデータの可視化については、定評のあったマイクロストラテジーだが、今回の製品でもその部分はかなり強化されている。エンドユーザーがIT部門の手を借りることなく、直感的な操作でデータを組み合わせ、様々なパターンのグラフ化が瞬時に可能だ。最近は、企業が持つデータを統計学的に分析し、そこからモデル化、シミュレーション、予測を行うデータサイエンスが注目されているが、専門の分析官でなければ、保有するデータの関係を分析するための仮説や分析軸を設定することはなかなか難しい。
この製品では、クラウドやオンプレミスに格納されたデータをエンドユーザーが、試行錯誤しながら分析するための支援機能が充実しており、分析軸や仮説の検証が自在におこなえ、グラフの形式も豊富。
中でも、今回強化されたのが、ソーシャルやモバイルデバイスなどから得られる位置情報を含むデータを分析をおこなう「マップ・アナリティクス」である。
データ分析のネックとなるデータの前処理とデータ作成を強力にサポート
一般にデータ分析を行う場合、苦労が伴うのは分析データそのものをツールに読み込ませるための、加工と前準備であるといってよい。そのため、分析者は必然的にデータの前処理のスキルが必要となり、SQLやデータ統合・加工の方法を知る必要がある。しかし、多くの場合、分析官や統計のスキルとSQLなどのデータ加工のスキルは全く別である。現在、脚光を浴びている「データサイエンティスト」は、それらをすべて兼ね備えたプロということになるが、ビジネスの現場にそういう逸材はそう多くはない。
エンドユーザーが複数のデータソースに瞬時にアクセスし、統合、加工するために提供している機能が、「データ・ブレンディング」機能である。財務データや売上データ、人事データなどを、IT部門の支援無しにブレンドすることができる。操作はマウスによるドラッグ&ドロップで、いわばマイクロソフトのACCESSや、データ連携ツールのGUIのような感覚である。
そして、このブレンドする元のデータソースは、正規化されたRDBだけではなく、Hadoopなどに格納された非構造データ、公共機関のオープンデータ、ソーシャル上のデータなど幅広い。SQLのスクリプトは必要ない。どのようなデータソースも柔軟に組み合わせ、シングル・インスタンスとして扱うことができる。
インモメリに対応することで大幅にパフォーマンスを向上
前バージョン(Microstrategy 9.3.1)に比較して、パフォーマンス上の大きな飛躍を遂げている。その理由はインメモリである。このところ、SAP、Oracle、IBMなど大手のデータベースはインメモリ機能を取り入れることで、性能の大幅向上をうたっているが、マイクロストラテジーも例外ではなく、これまでの10倍以上のデータ量、数百億列までのインメモリ分析容量の増大、40倍のパフォーマンス向上、40%以上のレスポンス高速化、2倍のスループットスケールアップを果たしたとしている。
セルフサービスのダッシュボード機能も強化
これまでもダッシュボード機能は充実していたが、今回からはトランザクションデータ、リアルタイム・ストリーミングデータ、動画などのマルチメディアデータの取り込みと編集を、エンドユーザーレベルで行えるようになった。またダッシュボードの使い方として、エンドユーザーがシナリオを立て、仮説に基づくシミュレーションをおこなう機能、モバイルからのトランザクションデータの入力などの機能も向上した。
数秒単位でリアルタイムデータが、ダッシュボードで更新されることが、今回のバージョンアップの大きな目玉だという。
Facebookとのパートナーによって鍛えられる次世代インメモリ分析
あまり知られていないが、マイクロストラテジーはFacebookと初期の頃からかなり親密な関係にある。Facebookのユーザーの投稿やプロファイルは、マイクロストラテジーをhadoopすることで用いられてきている。Facebookの11億ユーザー、数百ペタバイトのユーザーのDWHの分析が行われている。これらの膨大なスケールのユーザー分析が、Facebookとマイクロストラテジーの共同プロジェクトとして行われている。特に両者の関係では、次世代のインメモリのデータ分析として実用化されている。
FacebookのGuy Bayes氏がバルセロナのカンファレンスで発表している動画がこちらから見ることができる。
Rのプラグインも強化
以前はBIツールはもっとも可視化や帳票ツールに用い、高度な分析は統計解析ツールなどを使うといったデータ分析といった棲み分けの時期があった。最近は、SASのような統計解析ツールにとってかわり、オープンソースの「R」が標準になりつつある。前回のバージョンでRとの連携を果たしているが、今回の機能強化のポイントは、このアナリティクス・プラットフォーム側から、Rをビルトインのようにして簡単に呼び出し、利用できることだ。従来のマイクロストラテジーの300以上の分析機能に加え、Rプラグインによって、Rの全機能が追加される。ユーザーにとってみれば、Rを意識することなく、ライブラリとして利用できる。
以上が、今回のマイクロストラテジー・アナリティクス・プラットフォームの機能強化の一部だ。データ分析市場に注目が集まる現在、かつてのBI企業(コグノス、ハイペリオン、ビジネス・オブジェクツ他)がIBMやオラクル、SAPなどのメガベンダーに吸収合併され、垂直統合のソリューションの一部として包含されていく中、1社独立系をして気を吐いているマイクロストラテジーは、専業BIベンダーとして、「エンドユーザーのためのデータ分析」を徹底的に追求しているといえるだろう。